国家安全保衛部――北朝鮮「秘密警察」の知られざる内幕
キム氏が特別だったのは、大っぴらに中国の吉林省・長白県やその対岸の両江道・恵山(ヘサン)市を行き来し、骨董品の売買を行ってきたという点だ。
保衛部は、財政難から情報源に対し十分な報酬を出せない代わりに、違法な経済活動を黙認する形で、経済的な利益を与えているのだという。
十余年にわたり保衛部員を務め、今は韓国に住む脱北者のS氏はこう付け加える。
盗聴と尾行
「泣く子も黙る保衛部だが、その内実は予算が足りず、情報員に対する報酬も(生涯保障が付く)勲章の代わりにトウモロコシ15キロなどで済ませるケースが多くなった。それすらも出せない場合には、犯罪行為に目をつぶることになるが、単なる生活物資の密輸だけでなく、麻薬の密輸を見逃すこともある。さらに、そうして発生した利益の一部をあべこべに上納させることもある」