北朝鮮の若者2人が味わった「たった14時間の自由」

きっと何かをやらかしたに違いないと見た指揮部は、新義州市保衛部(秘密警察)に通報した。保衛部は、中国の丹東市公安局に捜査協力を依頼した。公安は、すぐに挙動不審な2人の若者を発見し身柄を拘束、翌日に保衛部に身柄を移送した。その間、わずか14時間のことだった。

(参考記事:移動距離は300キロ…18歳の脱北兵士がたどった「謎の旅路」

取り調べに対して2人は、このように供述した。

「新義州に初めて来たが、対岸の中国にうっとり見とれてしまい、好奇心から川を渡ってしまった」

そもそも脱北をしようなどという考えは全く持っていなかった2人は、必要な資材の調達が終われば、すぐに両江道に戻るつもりでいた。しかし、中国のまぶしさに見とれてしまい、「向こうの世界を見てみたい」「3日以内に戻れば大丈夫だ」「時間がなくなって資材の購入ができなくても、カネさえ返せば問題ない」と考えて、川を渡ってしまったのだ。

保衛部は、2人に対して「感想文」を書くように命じた。そこにはこんなことが書かれていた。

「両江道から見ていた中国と、新義州から見る中国ではあまりにも違った」
「光り輝く都市や道沿いに立ち並ぶ街路灯など、光があまりにもまぶしかった」
「人々が、夜遅くまで羊の串焼きを食べ、ビールを飲む様子は、(北朝鮮に戻れば)ふたたび見ることがないであろう平和で平穏な光景だった」

保衛部の係官に「見て感じたところを正直に書いていい」と言われた2人は、その言葉を真に受けて率直に感じたことを書いてしまったのだ。係官は、感想文を読み上げる2人を何度も殴りつけた。(参考記事:向かう先は「処刑場」…脱北者”最期の映像”に息飲む人々