「事故死した98人の遺体をセメント漬け」北朝鮮軍の中で起きていること

軍服を着た収監者たち(1)

いま、北朝鮮で最も飢えているのは、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士たちだとされる。北朝鮮では、民間人の食糧事情は好転しているが、協同農場の収穫物に頼っている兵士の食糧事情は、配給システムの崩壊や配給担当者の横領・横流しのせいで劣悪な状態から抜け出せていないのだ。

また、兵士の大半は銃の扱い方も教えられないまま、ダムや発電所建設にタダで動員できる労働力として使い倒される。金正恩党委員長はどうやら、核や弾道ミサイルなどに関わる一部のエリート部隊にしか関心がないようだ。

韓国の北韓人権情報センター(NKDB)は最近、「軍服を着た収監者〜北朝鮮軍の人権実態報告書」と題した報告書を発表した。北朝鮮軍に勤務した経験を持つ脱北者70人を対象に、昨年10月から今年1月までの間に聞き取り調査を行った結果をまとめたものだ。

それによると、北朝鮮軍の兵士たちが動員された工事現場では、深刻な死亡事故が発生している。

回答者の41.4%は建設現場で死亡事故を目撃し、21.4%が聞いたことがあると答えた。また、軍勤務中の死亡原因としては、劣悪な作業環境と高強度の労働によるものが最も多かったとのことだ。

中でも、1997年4月に起きた大規模事故は、北朝鮮軍における人権侵害の最たるものと言えよう。

この事故は、韓国との軍事境界線に近い黄海北道(ファンヘブクト)金川(クムチョン)郡を流れる礼成江(レソンガン)で、建設中の橋が崩落し、朝鮮人民軍5軍団4師団18連隊所属の兵士98人が死亡したもの。当局は完成予定日に無理やり間に合わせるために、遺体収拾を行わずセメントで埋めてしまったというのだ。報告書では、複数の回答者がこの事故について証言している。

(参考記事:【画像】「炎に包まれる兵士」北朝鮮 、ICBM発射で死亡事故か…米メディア報道

同じ金川郡では1989年4月、高速道路の建設現場で橋が崩落し、現場で働いていた兵士500人が120メートル下の川原に落下する大事故が起きている。川原には原形をとどめない死体が散乱し、救助の看護師たちが気を失うほどの地獄絵図と化したという。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

このような事故が多発する原因として、北朝鮮特有の「速度戦」と呼ばれる突貫工事がある。

太陽節(金日成氏の誕生日=4月15日)や光明星節(金正日氏の誕生日=2月16日)において成果として示すため、当日に間に合うよう、無茶苦茶なスケジュールで工事を行うのだ。その結果、手抜き工事が多発しており、鉄道や橋梁、建物の崩壊などといった大惨事が後を絶たない。