【実録 北朝鮮ヤクザの世界(下)】社会主義国で「経済ヤクザ」が誕生するまで

彼の言葉には、独裁体制のなかで生き抜いてきた究極のリアリズム、そして政治や思想という「建前の世界」から自由でありたいというアウトロー独特の矜持が感じられた。

白氏が語ったように、1992年からの取締によって既存のヤクザ組織は壊滅するが、その後は北朝鮮が未曾有の社会危機に襲われたことによって、裏社会もそれどころではなかったようだ。

北朝鮮は1995年頃から「苦難の行軍」と言われる経済危機に突入する。それまで一日食いつなぐのに精一杯だった配給や国営企業での月給が絶たれることによって、数十万人から100万人もの餓死者が出た。

状況が変わり始めるのは2000年頃からだ。国営企業が本来の役割を果たせない中、住民達、特にアジュンマ(家庭の主婦)が中心になって、ヤミ市場を拡大させていく。

覚せい剤の蔓延

北朝鮮政府もなんとかヤミ市場をコントロールしようとするが、絶対的なモノ不足のために結果的に追認せざるをえなくなる。このヤミ市場を中心として、しばらくはなりを潜めていた「ヤクザ」達が復活したようだ。