【実録 北朝鮮ヤクザの世界】28歳で頂点に立った伝説の男
取り調べでは過酷な拷問を受けたものの、決して口を割らなかった。それどころか、ハンガーストライキまで決行したという。断食で衰弱すれば病院に収容され、逃亡のチャンスが作れるからだ。虎視眈々と逃亡のチャンスをうかがうなか、ある日、組織のボスが面会に訪れた。衰弱した様子を心配しながら、ボスは意味ありげに差し入れのパンをわたした。実は、そのパンの中には、メモが仕込まれていたのだ。
「今晩12時、襲撃に行くから待っていろ」
派手な立ち回りで逃亡が困難になることを恐れた白氏は、監視員に「女が来るから少し外してくれよ。あとでお礼ははずむから」などと言いくるめて、まんまとボスの手引きで脱出することに成功。その後は、ボスのアドバイスで、ある女性の所へ身を寄せたという。
韓国人の弟分
その女性とは、以前から彼と顔見知りだった女愚連隊長のヨンヒ。通り名は「火狐(プルヨウ)」。涼しげな目元と筋の通った鼻が魅力的だったという「火狐」は、指名手配犯である自分を匿うことを心配する白氏に向かってこう言い放った。
「見損なわないで!3ヶ月で、あなたを元の姿にして送り出してあげるよ」
脱獄したヤクザを、肝の据わった女愚連隊長が助ける――まるで映画のような出来すぎたストーリーだ。まだ、義理と人情が生きていた1990年代の北朝鮮社会らしい話である。また、国家権力とは一線を画し、腕っぷしを頼りに生きるオトコの姿は、母性本能を呼び覚ますものだったのかもしれない。
その後、体調を回復した白氏は、韓国行きを決意。まだ、脱北が一般的ではなかった当時にあっさりと韓国行きを決意したのは、彼に「どこでも生き抜ける」タフさが備わっていたからに他ならない。
韓国へ入国した白氏は、自らの力で商売をはじめ、それなりに成功していた。すでに韓国人の弟分を従えていて貫禄をつけていた彼に聞いてみた。
「組織を再建したい」
「韓国に来てからの暮らしぶりはどうですか?」