「禁断の音楽」聴きまくった北朝鮮男性を公開処刑

北朝鮮の金正恩党委員長は5日から行われている朝鮮労働党第8回大会での報告で、「社会生活のあらゆる側面で北朝鮮独自の革命的生活様式を確立し、非社会主義的な要素を完全に排除する」よう呼び掛けた。

非社会主義とは、北朝鮮が「社会主義に似つかわしくない」と考えるすべての要素を指す。金正恩氏の呼びかけで、そうした要素に対する取り締まりはいっそう激しくなるだろう。

また、12月4日の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会では、「反動的思想・文化排撃法」が採択されている。主に韓流と海外のラジオ放送にターゲットを絞って取り締まりを強化するためのものだ。

施行当初は人々に法を広く知らしめ、恐怖を植え付ける目的で、違反者を公開処刑するのが北朝鮮の常套手段だが、実は同法の成立前に犠牲者が出ている。

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米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の司法機関の幹部の話として、RFAを愛聴していた船長が公開処刑されたと報じた。船長は「耳に心地よい音楽」――つまり、北朝鮮では「禁断」とされている韓国や欧米の音楽の虜になっていたということだ。

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金正恩政権の外貨稼ぎを担っている中央党(朝鮮労働党中央委員会)39号室は、傘下に数多くの貿易会社、銀行、企業を抱えているが、咸鏡北道の清津(チョンジン)には水産事業所がある。水産物は主に中国に輸出される、外貨の源泉だ。

50代の男性、チェさんは、この水産事業所に所属する船長で、50隻もの漁船を所有する「船主」と呼ばれるトンジュ(金主、新興富裕層)だった。日本式に言い換えれば「網元」と言ったところだろう。30代から船長を務めていた彼は、漁に出るたびに、若い乗組員と共にRFAの番組を愛聴していた。

現地の別の住民によると、チェさんは兵役で軍にいるときからRFAを愛聴していた。軍で働いている間にRFAにハマる人は多いようで、今年6月には平壌の人民武力省庁舎で勤務する通信中隊の女性分隊長が、RFAを聞いていたことが発覚し、逮捕されている。

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チェさんは、絶大な権力を誇る39号室所属ということもあってか、安心しきっていたようだ。ことが表沙汰になりそうになったとしても、もみ消すだけのカネとコネを持っていたであろうことも想像に難くない。

しかし普段の行いの悪さが、チェさんを破滅に追い込んでしまった。現地住民によると、他の漁師をバカにするなど傲慢な態度で評判が悪く、恨みを抱いた何者かに密告され、咸鏡北道保衛局に逮捕されてしまった。

取り調べでチェさんは、海外ニュースと「耳に心地よい音楽」に魅了され、RFAを聞き続けたを自白した。保衛局は、この件を「反党行為で、体制転覆を試みたもの」と見なし、教養(懲役刑)で済ませるレベルを超えていると判断。今年10月に市内の外貨稼ぎ水産事業所の船長、責任者ら100人を集めた上で、彼を公開銃殺した。

また、彼の船の操業を認めた地元の党委員会、行政当局、保安機関の幹部に対して、解任、撤職(更迭)、除隊などの処分を下した。

RFAや韓国のKBSを聞いていたのはチェさんだけではなく、漁師の間では海に出るたびに海外からのラジオ放送を聞くのは当たり前のように行われてきた。海外のニュースや音楽のみならず、漁の安全に欠かせない正確な気象情報を伝えてくれるという理由もある。今回の公開銃殺の目的は、大物船主と言えどもラジオを聞けば殺されると恐怖心を植え付けることにあると、情報筋は説明した。

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北朝鮮国民が海外から放送されるラジオをどれほど聞いているのかは不明だが、RFAの名前はよく知られているようだ。2018年に韓国にやってきた脱北者は、RFAの取材に、「思想教養(政治学習)の時間に『RFAを聞くな』と言われるが、そうしてその存在を知ってしまう人がほとんどで、条件さえ揃えば聞こうとする」と答えた。

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なお39号室は、10月末から集中的な検閲(監査)を受け、国の許可なしに密輸を行い、利益を一部を着服していた副室長が銃殺されている。今回のチェ船長の公開処刑とほぼ同時期だが、2つの事件に関連があるのかは不明だ。

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