韓国で「性暴力」の餌食になる脱北女性たち…被害は一般女性の10倍

北朝鮮国内でも深刻

ツイッターのハッシュタグ #MeToo を掲げ、自らの体験した性暴力の被害を告発するムーブメントが全世界的な広がりを見せる中、韓国でも1人の勇気ある女性が声を上げた。

昌原地検統営支庁のソ・ジヒョン検事は先月29日、イントラネットへの投稿で、2010年10月に上司のアン・テグン検事(別の不正行為で既に退職)からセクハラを受けたと内部告発を行った。

ケーブルテレビJTBCに出演したソ検事は、自らが受けた被害について語ると同時に、別の女性検事が男性検事にレイプされた事例もあるが隠ぺいされたと発言し、組織の内部で性暴力が蔓延している現状を暴露した。

「マダラス」と呼ばれる性上納

また、「加害者があちこちの教会で悔い改めて救いを得たと言っているそうだが、被害者に許しを請うのが先ではないか」とアン元検事を批判した。女性に対する性暴力の多発している状況に加え、加害者が朴槿恵前大統領に近い人物であることや、過去の政権とのつながりがあったキリスト教保守プロテスタントが加害者に「禊ぎの場」を提供したことなどが、韓国国民の怒りに油を注ぐ状況となっている。

一連の事態と関連して韓国のテレビ局MBCは、韓国社会で最も弱い存在であるのに、関心の外に置かれがちな脱北女性が、性暴力に脅かされている現状を大きく取り上げた。

北朝鮮出身で脱北後に韓国の新体操ナショナルチームのコーチを務めたイさんはMBCとのインタビューで、協会幹部からのセクハラやパワハラに苦しめられ続けたことを告白した。イさんは、コーチを辞めさせられるかもしれないという恐怖と、自分は脱北者だからというあきらめから沈黙を強いられてきた。

脱北女性が置かれた状況は極めて深刻だ。

韓国女性家族省が2012年に発表した「暴力被害脱北女性カスタマイジング自立支援方案研究」という報告書によると、脱北後に性暴力の被害を受けた経験があると答えた脱北女性は全体の44.3%に達した。これは韓国女性の平均4.7%の10倍近い。

京畿道外国人人権センターが2015年に行った調査によると、韓国在住の外国人女性が性的暴力の被害に遭ったり目撃したりした割合は15.2%だ。調査方法が異なるので単純比較はできないが、同じ社会的弱者でも外国人女性より脱北女性の方がより性的暴力にさらされる可能性が高いことを示していると言えよう。

報告書は、脱北女性が北朝鮮、中国を含む第3国、そして韓国のいずれでも性的暴力の被害に遭っていると指摘している。

北朝鮮では軍における性暴力が非常に深刻だ。労働党への入党をちらつかせ性的関係を迫る「マダラス」と呼ばれる性上納行為が蔓延している。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

また、北朝鮮ではそもそも性暴力の概念が希薄で、セクハラやストーカー行為に対応する法律も存在しないため、被害女性が、自分が受けた被害が人権侵害だと気づいたのは脱北して韓国に来てからというケースが多いという。

脱北してたどり着いた中国で、人身売買や強制売春の被害に遭う女性も後を絶たない。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

そして、脱北女性はようやくたどり着いた韓国でも性暴力のリスクから逃れられないと報告書は指摘している。

脱北者への差別から就職ができず経済的に困窮した女性は、性暴力にさらされるリスクの高い風俗業に従事するケースが少なくない。また、風俗業に従事した経験を持つ脱北女性が夫からドメスティック・バイオレンスを受けた割合は82.4%に達し、従事経験のない脱北女性の5.4倍に達した。常に性暴力のリスクに晒され続けていることを報告書は示している。

(参考記事:「自由」の夢やぶれ韓国でも性的搾取…脱北女性の厳しい現実

脱北者の監視、保護のために定期的に派遣される刑事と不倫関係に陥るケース、中国にいる夫と離れ離れになった寂しさを紛らわせるためにデートした相手から暴行されるケースなどが具体的な事例として挙げられている。

MBCは、警察の無配慮な対応も被害者を追い込んでいると指摘した。性暴力の被害を訴えたある脱北女性は、警察で被害状況を再現する動画を撮影させられ、精神的ショックで不眠に悩まされるようになったと語った。

一連の事態は、韓国社会における女性全般に対する差別と、脱北者に対する差別が絡み合った複合差別が、脱北女性をさらなる窮地に追いやっていることを浮き彫りにした。