兵士と農民が大乱闘…北朝鮮「食べ物の恨み」で社会に亀裂

国際社会の制裁に加え、相次ぐ自然災害に苦しめられている北朝鮮。国連世界食糧計画(WFP)の報告書によると、今年の小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、コメなどの作物の収穫量は平均以下だった。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は、食糧を確保するために、各地の協同農場に部隊を展開している。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、「道内の肅川(スクチョン)郡の協同農場には農民より兵隊の数の方が多い」状況だと伝えた。兵士たちは、農場の脱穀場や倉庫で監視に当たっており、稲刈りの現場に出て監視するケースすらあるという。

この軍部隊では、司令官と政治委員から「今年の作況はよくないが、軍糧米は何が何でも確保しなければならない、手段を選ぶな」との指示が下された。それを受けて食料確保担当の糧食参謀は、農民が軍に納める軍糧米をちょろまかさないように、兵士を多数動員して監視に当たらせているというわけだ。

軍は、食糧の多くを協同農場からの供給に頼っているが、凶作で収穫量が少ないので、確保を指示されたノルマを満たすために、必死になっているということだ。そうせねば、腹をすかせた兵士たちが協同農場や民家を襲撃したり、国境を超えて中国で盗みを働いたりする事態になりかねない。

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しかし、あまりに強引なやり方のせいで、トラブルが続出している。

別の情報筋によると、道内の平城市の慈山(チャサン)協同農場では、軍糧米の徴収にやってきた糧食参謀と、農場の幹部との間で大げんかが起きた。

事の発端は、次のようなものだった。

軍は、脱穀だけして精米もしていない状態で次から次へとコメを運び出していた。それを見かねた農場の作業班長と技術指導員は「米粒に含まれた水分が多いので、よく乾燥してから持っていけ」と糧食参謀に助言した。しかし、「かまわない、このままで持っていく」と糧食参謀が反論したことから、喧嘩になったという。

農場幹部は、親切心からそんな助言をしたわけではない。軍糧米として奪い取られるコメを少しでも奪い返すチャンスをうかがうために、出荷を遅らせようとしていたのだ。

最初は口論から始まり、徐々にエスカレート。糧食参謀が技術指導員に殴りかかったことで、周りにいた農民と兵士が加勢して、乱闘騒ぎとなった。事態を収拾するために兵士は空砲を撃った上で、実弾の装填された銃を農民に向けたが、農民は「人民の生命と財産を守るため、農作業に励み、兵士たちが腹をすかせないようにしてきたのに、その農民に銃を向けるなんて」と怒り心頭だ。

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本来なら処罰されてもおかしくない行為だが、軍の内部ではむしろ「よくやった」と称賛する空気が濃く、糧食参謀は表彰を受け、昇進する見込みだという。

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コメを巡る軍と農民のトラブルは、農民の間にも亀裂をもたらしている。

別の情報筋によると、平原(ピョンウォン)郡の大井里(テジョンリ)では、農民と協同農場の統計員との間のトラブルが深刻な事態をもたらした。

30代中盤の女性の統計員は、軍糧米の徴収にやって来た護衛局旅団の糧食参謀に自分の家を宿として提供して不当に利益を得るだけでなく、軍と一緒になって「コメを出せ」と農民に迫った。

まるで軍から来た担当者のように横暴に振る舞う統計員に対して、農民の間で不満が高まりつつあったが、何らかのきっかけで小競り合いとなり、頭にきた農民たちは統計員に向かってこんな言葉を吐いた。

「治安隊のように振る舞うな」

治安隊とは、朝鮮戦争当時に、韓国軍と国連軍が占領した地域で行政や治安を担当した組織だが、「アカ」の監視・摘発を行い、虐殺に及ぶことも少なくなかったため、北朝鮮ではならず者の代名詞のようになっている。

朝鮮戦争後の北朝鮮社会では、治安隊に携わった本人はもちろん、その家族も子孫も敵対階層として、様々な社会的不利益をこうむっている。父親が治安隊の隊長であったことを隠し、石材加工工場の支配人の座に登る詰めた男性は、多くの人が見守る中で銃殺刑に処された。

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北朝鮮において、他人を治安隊呼ばわりすることは、相手に非常に強いショックを与える罵倒と受け止められる。

案の定、この発言が問題となった。統計員が党委員会に信訴(通報)したのだ。彼女を治安隊呼ばわりした農民はことごとく、党委員会と保衛部に呼び出されるはめになった。うち数名は未だに保衛部から釈放されていない。

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