中朝国境の川で4人射殺…「金正恩命令」実行の一部始終
大飢饉「苦難の行軍」により国中が大混乱に陥っていた1990年代後半、金正日総書記は犯罪者を法的手続き抜きでその場で射殺するチームを派遣するという荒っぽい治安対策を行っていた。
(参考記事:強盗を裁判抜きで銃殺する金正日流の治安対策)そんな時代を彷彿とさせる事件が、北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)で起きた。現地のデイリーNK内部情報筋によると、今年9月1月の深夜、道内の金亨稷(キムヒョンジク)郡を流れる鴨緑江から、激しい銃声が聞こえた。その詳細が最近になって明らかになった。脱北しようと川を渡っていた4人が射殺されたのだ。
女性芸能人に「見学」強制
事件の概要は次のようなものだ。
脱北ブローカーの女性は前日夜、脱北希望者5人を連れて川を渡るため普天(ポチョン)郡に向かっていた。その途中で今回の脱北に加担していた国境警備隊員から「保衛部(秘密警察)の監視が異様に厳しい」との話を聞いた。
そこでブローカーは急遽、川を渡る地点を150キロ下流の金亨稷郡に変更。現地に到着し、以前から連携している現地の国境警備隊員に5人を引き渡した。彼らが川に入るのを見て、ブローカーは現場を立ち去った。
彼らが国境警備隊員に導かれ河原に降り、足を水に浸して対岸に歩き出したとき、銃声が響き渡った。保衛部の要員が彼らに向けて銃を乱射したのだ。
4人が射殺され、なんとか中国側に逃げおおせたのは1人だけだった。ブローカーはその場で逮捕された。
逮捕されたブローカーは、普天郡に駐屯する国境警備隊の中隊の政治指導員の妻だったが、実は保衛部のスパイだった。
「警備隊指導員の妻は既に人身売買容疑で保衛部に逮捕されていて、スパイとなることを強制された。今回の計画は準備段階から保衛部に筒抜けだった」(情報筋)
つまり、妻は保衛部から命じられるままに計画を進め、脱北希望者らを罠にかけたということだ。
夫の指導員も逮捕され、二人とも保衛部の取り調べを受けた上で、2ヶ月に渡って予審(捜査終了後起訴までの追加捜査、取り調べ)を受けているという。2人がその後、どのような処遇を受けているかについては詳らかでない。
(参考記事:北朝鮮、脱北女性を拷問した将校を厳重処分…人権問題を意識か)事前警告も行わずにいきなり銃撃、射殺した今回の事件を知った地元民は怯えきっている。
「当局は国境地帯で(わざと)銃声を鳴り響かせ、脱北する気が失せるようにしたようだ。国境を超える者は射殺しても良いという指示があった可能性がある」(情報筋)
実際、金正恩党委員長は、脱北に対して射殺を含めた厳しい対処を取るように指示しており、今年5月には朝鮮労働党の大紅湍(テホンダン)郡副委員長の30代の息子と、同行していた2人の3人が脱北に失敗し、射殺されている。
こうした残忍さにおいて、金正恩氏が父親に勝るとも劣らないことは、すでに国際社会でも広く知られている。自分が気に入らない部下たちを処刑する際、その場面を女性芸能人らに無理やり「見学」させた前科まである。
(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー)
また、彼らが見せしめで殺されたことについて情報筋は、最終目的地が韓国だったことが影響した可能性があると指摘した。先に脱北して韓国に定住し、残りの家族を北朝鮮から呼び寄せる形の脱北が多いことを考えると、今回の件で亡くなった4人も家族だった可能性が考えられる。
川の両側は中朝ともに人口希薄地帯が広がっており、手荒なことをしても、北朝鮮の人権状況を批判している国際社会に知られることはあまりない。実際の犠牲者は、知られているより遥かに多いだろう。
(参考記事:脱北に失敗した家族を待つ過酷な運命)