金正日命令で「健康な人も廃人に」北朝鮮刑務所の実態

世界最悪の人権国家と言われる北朝鮮。その中でも、さらに著しい人権侵害が起きているのは、管理所と呼ばれる政治犯収容所、次いで教化所と呼ばれる刑務所だ。

韓国などに住む脱北者の多くは、教化所などに収監された経験を持ち、国際社会でその酷さを訴えている。それが多少の効果があったのか、最近ではわずかばかり改善されたとの話もあるが、想像を絶する状況であることに変わりはない。

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米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、脱北者を家族に持つ男性が、些細なことで逮捕され、教化所に入れられ、看守に暴行を受け半身不随になった件の一部始終を伝えている。

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ことの始まりは今年8月に遡る。

脱北し韓国に住む家族を持つ平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、道内の甑山(チュンサン)教化所から、服役中の54歳の弟Aさんを連れて帰れとの電話連絡を受けた。

この教化所について、韓国のNGO・北韓戦略センターの姜哲煥(カン・チョラン)代表は朝鮮日報の記事で「いくら健康な人でも廃人になって帰ってくるところ」と表現した。金正日総書記の「社会の綱紀を乱す犯罪者は10年を1年のように鍛錬せよ」という指示に基づくものだ。つまり、厳しく痛めつけろということだ。

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教化所に向かったところ、Aさんは脳出血で意識のない状態だったが、教化所側から「病気で保釈したからともかく連れて帰れ」と押し付けられたという。

詳細を説明しようとしない教化所の職員。ところが、面会室にいた別の受刑者から事実を告げられた。

「Aさんは看守から暴行されて脳に大きな衝撃を受けた。クラクラすると言って嘔吐を繰り返した末に倒れた」

さらに、教化所は男性を治療せずに独房に監禁したが、手足が麻痺したのを見て「死ぬかもしれない」と思い、家族に慌てて連絡したようだ。教化所内で死なれては、あとが面倒だからだ。

ことの一部始終を知った家族や村人は、男性を半身不随にしても責任を取ろうとしない教化所幹部に対して怒りを露わにした。

脱北した韓国に住むAさんの息子はRFAの取材に、Aさんは今年3月に電波の通じる両江道まで来て、ブローカーの手助けで、自分に電話してきて金の無心をした。それが電波探知機に捉えられたことで、保衛部に逮捕され、懲役5年の判決を受けて甑山教化所に入れられたと明かした。

Aさんが看守から暴行を受けた理由についてこの男性は、韓国に住む家族が北朝鮮に残してきた親戚を通じて差し入れた現金を隠し持っていたためだという。北朝鮮の刑務所は環境が非常に劣悪で、食糧や現金の差し入れをしてもらえなければ生き残れない。

面会に来た家族は、教化所が経営する割高なコンビニで差し入れの品を購入することを強いられている。

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当局は、この責任を取るどころか、むしろ一家に対する監視を強めている。

平安南道の成川(ソンチョン)の情報筋は、Aさんの家族は全員脱北して韓国にいるため、前述の親戚の家で治療も受けられずに寝たきりになっていると伝えた。

Aさんは両足が麻痺して歩けない状況だが、地域の保安署(警察署)は、この親戚にAさんを毎日保安署に出頭させ、「脱北していない」という書類に判子を押させる作業を毎日強いている。厳しい監視と懲罰のような要求に、親戚も村人も「罪のないひとを半殺しにしたくせに、補償はおろか犯罪者扱いするばかり」だと激怒している。

別の情報筋によると、近隣には家族の多くが脱北して取り残された人がいて、保安署、保衛部(秘密警察)のみならず、人民班(町内会)、勤め先の工場、学校でも彼らの行動を逐次報告するよう非常連絡網が作られていて、少しの間でも居所がわからなくなれば大騒ぎするという。

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