金正恩氏も視察「国家科学院」に違法薬物疑惑という末期症状

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、北朝鮮の「国家科学院」が、覚せい剤など違法薬物の原材料や製造機器を、密造業者に販売しているとの疑惑が持ち上がっているという。

国家科学院は、平壌市の恩情(ウンジョン)区域に位置する北朝鮮内閣所属のれっきとした中央行政機関だ。昨年1月には金正恩党委員長も現地指導した、格式の高い機関である。そのような重要機関が製造に関与している可能性はあるのだろうか。

北朝鮮はかつて、麻薬や覚せい剤を国家機関の主導で製造し、日本などに密輸していた経緯がある。しかし、各国当局の厳しい取り締まりにより、密輸は徐々に下火になった。皮肉なことに、それが北朝鮮国内で薬物が蔓延するきっかけとなる。薬物の「在庫」もあれば、製造技術も原材料もある。しかし売り先がなくなったため、自ずと国内で流通するようになったのだ。

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RFAの平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、「国家科学院は中間実験工場で使用される試薬を薬物の密造業者に売っている。さらに、薬物の生産に必要な設備機器も国家科学院の実験器具の工場で製造している」と述べている。

さらに、国家科学院が研究資金の不足に苦しんでいることも、疑惑の背景になっている。金正恩氏は国家科学院を視察した際、「科学技術人材との活動に大きな力を入れ、彼らを尊重し、(中略)科学研究部門への投資を引き続き増やすべきだ」と指示した。

しかし金正恩体制は一連の核・ミサイル開発によって、国際社会から厳しい制裁を加えられている。国家が外貨不足で苦しむ中、国家科学院に十分な資金が供給されているかどうかは疑わしい。そして、たとえ研究資金が不足していても、成果は求められるのが北朝鮮のお国柄だ。そこに違法薬物の密造業者が目をつけ、自分たちのパートナーに引っ張り込んだ可能性は十分にある。

厄介なことに、今でも北朝鮮では違法薬物の需要が高い。背景には北朝鮮社会において、覚せい剤などの違法薬物が人体に深刻な害を及ぼすという認識が徹底されていないことがある。先月の旧正月前後には、オルム(氷=覚せい剤を表す符丁)と呼ばれる覚せい剤の値段が高騰した。正月プレゼントとして需要が高まったからだ。

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日本に在住する脱北者のAさん(40代の女性)は、隣家の10代の学生が覚せい剤中毒になって大変な騒ぎとなったことをきっかけに、北朝鮮社会のモラル崩壊を目にし、絶望を感じて北朝鮮を逃れたという。

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金正恩氏は、少なくとも表向きには、薬物の蔓延を厳しく取り締まる姿勢を見せている。しかし自身が視察して期待を寄せた国家機関が薬物密造に関わっていたとするなら、これほど皮肉な話はない。