北朝鮮で「歯がズレて」死亡の米大学生側が1200億円賠償請求
米バージニア大学生だったオットー・ワームビアさん(当時22歳)は、北朝鮮を旅行中に同国当局に拘束され、昨年6月に昏睡(こんすい)状態で解放されて間もなくして死亡した。その死因を巡り、ワームビアさんの両親は北朝鮮を相手取って民事訴訟を提起しており、19日にはワシントンDCの連邦地裁に出廷。父親のフレッドさんは、息子が北朝鮮当局により「嘘の自白を強要された」として、北朝鮮の責任を徹底的に追及すると話したという。
一方、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、ワームビアさん側の弁護人は10月、同地裁に提出した文書で、北朝鮮に10億9604万ドル(約1217億円)の損害賠償を請求する旨を明らかにしたという。これは懲罰的賠償金とワームビアさんが受けた精神的苦痛に対する補償、ワームビアさんが将来得るはずだった経済的損失に対する補償、両親に支払う慰謝料などを合わせ合計額だ。
中でも、請求額の大部分を占めたのは懲罰的損害賠償で、亡くなったワームビアさん本人と両親の3人にそれぞれ3億5000万ドルずつ、合計で10億5000万ドルを支払うべきとしている。
米国の裁判所は2001年、北朝鮮の監獄で受けた拷問の後遺症で死亡したとされるキム・ドンシク牧師の遺族に北朝鮮が3億ドルの懲罰的賠償金を支払うよう判決を下した前例がある。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは… )
今回はその3倍を超える額だが、北朝鮮は法廷で正式に抗弁する手続きを取っておらず、裁判所は請求を認める判決を下す可能性が高い。
ちなみに懲罰的賠償金というのはその名の通り、多額の賠償命令によって相手の行動に制動をかけ、同じ過ちが起きないようにするためのものだ。しかし実際のところ、キム・ドンシク牧師の件で巨額の懲罰的賠償金が科されたにもかかわらず、またもや北朝鮮において、ワームビアさんの問題が起きてしまった。
だからこそ、今回はいっそう巨額の懲罰的賠償金が請求されているわけだが、それでもやはり、北朝鮮が懲りることはないように思える。
それよりも筆者は、裁判所がワームビアさんの死因について、どのような判断を示すかに関心がある。
ワームビアさんの両親は「北朝鮮から帰ってきたワームビアさんの歯列が大きく変形していた」と主張している。上の写真は北朝鮮に行く前のワームビアさんの写真だ。問題は下の歯列の中央の2本の歯なのだが、この写真ではきれいな歯並びであることがわかる。
しかし、ワームビアさんの主治医が陳述書に添付して連邦地裁に提出したスキャン写真を見ると、この2本の歯が、不自然に口の内側に移動しているのだ。
(参考記事:【写真】大きく変形したワームビアさんの歯列)これについて主治医は、「外部から物理的な力が加えられた可能性がある」と述べている。両親はこうした資料などを根拠に、ワームビアさんが北朝鮮で拷問されたと主張している。
仮に裁判所がこの主張を認めたとしたら、北朝鮮にとっては相当なダメージだ。前途有望な米国の若者が拷問により殺され、その「証拠写真」までが示されたとしたら、米国世論が受けるショックは相当なものだろう。
(参考記事:「北朝鮮で自殺誘導目的の性拷問を受けた」米人権運動家)物事の展開次第では、今後の米朝対話にマイナスの影響が及ぶのも、あり得ないことではないのだ。