「不良幹部」の制裁が金正恩氏に与える大ショック

米財務省は10日、北朝鮮における深刻な人権侵害や言論統制に関与したとして、金正恩朝鮮労働党委員長の側近である崔龍海(チェ・リョンヘ)党副委員長兼組織指導部長とチョン・ギョンテク国家保衛相、朴光浩(パク・クァンホ)党副委員長兼宣伝扇動部長の3人を制裁対象に指定したと発表した。

党組織指導部長は北朝鮮の政務と人事を一手に掌握し、秘密警察トップである国家保衛相は政治犯収容所の運営などを担当、党宣伝扇動部長は国民の言論や思想を統制する。制裁指定されて当然と言える面々だ。

中でも崔龍海氏は、女性に対する変態的な人権侵害で知られる人物だ。今まで制裁対象になっていなかったのが不思議なくらいだ。

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米国はこれまで、2016年7月に金正恩氏を、2017年1月に金正恩氏の妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長を制裁指定するなど、計29人と13機関を人権問題で指定している。金正恩氏は、自分が制裁指定された際にはたいへんな荒れ方だったとされる。

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しかしもしかしたら、今回の制裁指定は彼にとって、さらに衝撃的だったかもしれない。

北朝鮮が米国との非核化対話に乗り出した目的は、簡単に言えばこれ以上、人権問題で圧迫を受けたくないからだ。非核化と引き換えに、北朝鮮の内政には口を出さないと米国に約束させることが、すなわち「体制保証」を得るということなのだ。

北朝鮮はいったん核兵器を放棄しても、天然ウランが国内で採れるから、その気になれば再び作ることができる。しかし、恐怖政治により体制を維持している以上、人権問題で妥協するわけにはいかないのだ。

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もちろん、核兵器が北朝鮮の国防にとって重要であることも確かだ。それをカードに使うくらいだから、金正恩氏がいかに人権圧力を嫌っているかがわかろうというものだ。

そんな重要なカードを切ったのに、米国から引き続き人権圧力を受けたのでは、金正恩氏も立つ瀬がなかろう。対抗策は核開発に回帰することだが、そんなことをしたら、米国を対話の場に引っ張り出すのは今まで以上にたいへんになる。それに何より、経済制裁を受け続ければ国内が持たなくなる。

米国がこのタイミングで人権圧力を強めたのは何故か。「非核化が進まないことに対するけん制だ」というのが大方の見方だ。そうかもしれない。さらにそれに加え、トランプ米大統領の北朝鮮に対する関心が薄れていることがあるのではないか。そしてその間隙を縫う形で、米政府内の人権派が「自分の仕事」を粛々と進めているのかもしれない。

いずれにせよ、米国でこのような動きが続けば、金正恩氏も何らかの対抗措置を取る必要に駆られるだろう。それがどのような形のものになるかが注目される。