【対北情報戦の内幕-9-】あるエリート公安調査官の栄光と挫折
日本政府は沈没した船が北朝鮮工作船であることを示すため、翌年9月、船体を引き上げ、遺留品を回収した。政府の目論見は、北朝鮮による対日有害活動を証明し、北朝鮮に国際的なダメージを与えることであったのだが……。
もちろん、その目論見はかなりの程度果たされた。しかし同時に、対北朝鮮情報を看板にしていた公安庁が衝撃に見舞われたことを記憶する人は少ない。
(参考記事:【対北情報戦の内幕-17-】海保を「情報機関化」へ導いた北朝鮮との銃撃戦)工作船から発見された日本製携帯電話のアドレス帳から、関東公安調査局統括調査官の電話番号が発見されたのだ。他ならぬ冒頭の男が、この統括調査官である。
ミイラ取りがミイラに
さらには統括調査官と、覚せい剤取引を行っていた暴力団関係者との通話記録も発見された。暴力団関係者は当然逮捕されたが、公安庁は男と北朝鮮の関係について沈黙し続けた。当時の状況を知る公安庁OBは、次のように回想する。