金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路
たぶん、運転兵にこのような指示を与えたのだろう。パラディンはぐんぐん加速し、夜間でもあり車のまばらな高速道路を疾走した。
すると、彼らの車に追い越された1台の乗用車が猛然と追い上げてきた。そしてパラディンを追い越し、道をふさぐようにして止まった。見ると、車種はメルセデスベンツの「S600」である。
北朝鮮では、ベンツは朝鮮労働党の幹部だけが乗ることができる。それも、大臣クラスの党書記ですら「S280」止まりである。
それをはるかに上回る高級車に乗っているのは誰か。師団長も運転兵も、すっかり怯えて固まってしまった。
するとS600の窓が開き、ひとりの若者が顔を出すと、パラディンをひとにらみして何も言わず行ってしまった。
翌日、軍総政治局の会議場に、その師団長の姿はなかったという。軍事行政トップである人民武力相のささいな言動に激高し、文字通り「ミンチ」にして処刑してしまう正恩氏の気の短さを考えれば、師団長が悲惨な末路を辿ったであろうことは想像に難くない。
正恩氏はこの「ベンツ追い越し」事件の前年には、父・金正日総書記の後継者となることが決まっていたとされる。もしかしたら正恩氏は、前途への不安と重圧の中、気分を紛らわすため夜のドライブに出ていたのかもしれない。
そんなタイミングでかち合ってしまうとは、師団長も運転兵も不運というほかない。金正恩氏の車についてのエピソードは他にもある。