「また地獄が来るのか」 北朝鮮を覆う”国境再封鎖”への不安
中国や台湾などでは今年4月以降、新型コロナウイルスの新たな感染拡大が起きている。この話は北朝鮮でも広がっていると、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
情報筋は「最近、恵山(ヘサン)市民の間で、中国でコロナが再び広がっているという噂が急速に広まっている」と述べた。住民の間では次のような声が上がっている。
「中国でコロナが再拡大して死者まで出ているらしい」
「それで最近国家密輸が止まっているのか」
「このまま密輸が止まってしまうのではないか」
「また国境が封鎖されるのではないか」
恵山では保衛局(秘密警察)、安全局(警察)など国家機関が関与する形で、中国から密輸で商品を運び込む「国家密輸」が行われている。先月中旬から中国当局の取り締まりで一時的に中断されているが、これが「国境再封鎖」の噂を広げている。
(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」北朝鮮、軍人虐殺の生々しい場面)
恵山市内の密輸業者の間では、中国国内でのコロナ19の再拡大がさらに深刻化すれば、再び国境が全面封鎖される可能性が高いという認識が広がっている。そのため、資金をかき集め、輸入品を前もって仕入れようと慌ただしく動いているという。
情報筋は「コロナによって国境が遮断され、多くの住民が文字通り飢死の危機に追い込まれた」とし、「4000北朝鮮ウォンだった食糧価格が一気に1〜2万北朝鮮ウォンに急騰した経験があるだけに、今回は事前に備えようという空気が出てきている」と話した。
続けて、「最近の密輸業者は、コロナ拡散の情報を常に確認しながら、今後どう対応すべきか頭を悩ませている」とし、「すでに中国に送金した商品の代金が凍結されるのではないかと心配し、不安で眠れないほどの精神的プレッシャーを感じている業者も少なくない」と述べた。
北朝鮮当局は、コロナ19事態が発生した2020年1月に国家非常防疫体制への転換を宣言し、国境を全面的に封鎖した。その影響で市場では買い占めが発生し、主要な生活必需品や輸入品の価格が数倍に跳ね上がるという深刻な混乱が起きた。
(参考記事:飢えた北朝鮮の一家が「最後の晩餐」で究極の選択)その後遺症は極めて深刻で、北朝鮮経済は未だにコロナ前の水準を回復できていないという。
地域経済は、「国家密輸」でようやく息を吹き返しつつあった。
情報筋は「個人による密輸は完全になくなったが、国家密輸を通じて輸出入が行われており、市場での商品の流通速度が目に見えて改善している」とし、「そのため商売人たちの間では『ようやく息を吹き返すかもしれない』という期待感が生まれていた」と語った。
こうした経緯があるため、住民たちは中国での感染拡大に敏感になっている。
情報筋は「国境封鎖は一部の人の問題ではなく、多くの市民の生活が関係する問題だ」とし、「国家密輸が止まっている中でコロナが広がっているという噂は、市民にとって恐ろしい話にしか聞こえない」と話した。
そして「人々はコロナ感染ではなく、国境が封鎖されて生活がさらに苦しくなることを心配し、恐れているのだ」とし、「国境が閉じて、1日1日をやっとの思いでしのぐ、死ぬに死ねない地獄のような状況が繰り返されないことを、心の底から願っている」と付け加えた。