北朝鮮でたくましく生き延びる「新興富裕層」の錬金術
北朝鮮の新興富裕層(ニューリッチ)である「トンジュ」は、経済が混乱状態に陥った1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の時代に、勤め先の工場の資材などを売り払って資金を作り、ヤミ金業などを営んで財産を築いた。
彼らは国の政策によって浮沈を繰り返してきた。最近の金正恩総書記は、市場経済化を抑制し、1980年代以前の社会主義計画経済体制に戻ろうとしているようで、そのあおりで多くのトンジュが没落した。
生き残ったトンジュは改めて権力と結託し、国の政策に便乗して儲けを確保している。たとえば黄海北道(ファンヘブクト)の沙里院(サリウォン)では、住宅や工場の建設に「いっちょ嚙み」している。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、沙里院市人民委員会(市役所)は、国家経済建設課題の執行のために必要なブロックなど、セメントで作った建築資材を製造するように市内のトンジュに指示した。
だが、市当局が買い上げるわけではない。実際に購入するのは一般市民で、それを国家に供出するよう強いられる。実際、先月26日に「今春に着手すべき地方発展建設計画」を発表した沙里院市は、市民に建設資材を供出するようノルマを課した。
市当局はこれにより、一銭たりとも予算を使わずに住宅建設を行うことができる。同時にトンジュはブロックが売れて儲かるという仕組みだ。もちろん、トンジュから市当局の有力者にはキックバックが渡る。この手のやり方は今までも繰り返されてきた。
数年前までは、沙里院市人民委員会がセメント、砂利、砂などの原料を調達して工場に送り、その上で生産を指示していた。当時も今と同じ「税金外の負担」として、市民に現金の寄付が求められたものの、額は少なかった。
ところが、今のようにトンジュが作ったものを買うやり方になってから、額が2倍に跳ね上がった。工場で一気に大量生産するのではなく、複数のトンジュが小ロット生産したものを買わされるからだ。
朝鮮労働党沙里院市委員会や沙里院市人民委員会のイルクン(幹部)の懐に、トンジュが納めたワイロが入るのは前述したとおりだが、元はと言えば市民の財布から出たカネだ。当然のことながら不満の声が上がっている。
「配給もなしに農村住宅、工場を自主的に建設せよという党の政策も嫌だが、国と個人がグルになっての金儲けに利用されるのはもっと嫌だ」(沙里院市民)
目的は利益追求であることはバレバレなのに、国の進める建設計画を掲げて正当化しようとする彼らの姿が見苦しいというのが沙里院市民の声だ。そもそもの問題は、国が建設を命じたのに、予算は一切負担せず、地方に丸投げするところから始まっている。