飢えが極まった北朝鮮で「血液の横流し」が横行

北朝鮮には、特別市、道ごとに輸血所(献血センター)があり、無償で血液を提供する献血と、有償の売血が並行して行われている。売血の代償は100グラムあたり2000北朝鮮ウォン(約34円)、または飴か砂糖だった。

売血するのは主に親から経済的援助を受けられず生活の苦しい若者や、経済的に苦しい人々が多かった。しかし最近になって売血する人の数が減り、地方の病院では輸血用の血液や血漿が不足する事態となっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、道内の病院で血液や血漿が不足し、救急患者の対応ができなくなっていると伝えた。血液や血漿は、平安北道輸血所が供給することになっているが、病院の要求する通りの量を供給できなくなっているのだ。このような現象は全国的に起きており、情報筋はその理由を「献血しようという人がいないから」と説明した。
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昨今の食糧難で栄養不足になっている人が少なくないが、献血や売血にはとても耐えられる健康状態ではないようだ。また、以前はもらえていた飴や砂糖はモノ不足でもらえなくなり、得られるのはたった2000北朝鮮ウォンの現金だけ。中国からの輸入に頼っている砂糖は、かなりの高級品であり、それなら充分な対価と言える。しかし北朝鮮ウォンの現金しかもらえないのなら、割に合わないということだ。

両江道(リャンガンド)でも事情は同じようだ。現地の情報筋は、かつて輸血所で売血の代償として配布していた食用油、栄養パウダーがもらえなくなり、今では現金と「物資は後日支給する」と書かれた紙しかもらえない。

しかし、1年経っても物資が配られず、売血した人は輸血所に押しかけて抗議したものの、輸血所は「道党(朝鮮労働党両江道委員会)に行って信訴(告発)しろ」との応答をするだけで、何もしてくれないという。
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それでは、血液や血漿が必要になった患者はどうしているのか。やはり市場に頼るしかない。情報筋の知人は、市場に行って血液100グラムを12万北朝鮮ウォン(約2040円)で購入し、家族に輸血したという。

その出処だが、輸血所や医薬品管理所の職員、幹部が横流ししたものに違いないと、情報筋は見ている。生活に困っているのは彼らとて同じ。血液や血漿を横流しすることで現金収入を得て、生活費にしているのだろう。このような行為は、北朝鮮で広く行われている。
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しかし、1キロが5000北朝鮮ウォンのコメを買うことすらできないほど、多くの人が経済的に困窮している中で、12万北朝鮮ウォンもする血液や血漿を買えるのはごく一部の人だけだ。建設現場などで怪我をした場合は、その場で同僚の血を抜いて、直接輸血するという。もちろん検査など行われないため、そこから血液由来の感染症が広がることもある。

韓国政府の資料によると、2004年から2010年の間にハナ院(教育施設)に入所した脱北者のうち、10.8%がB型肝炎ウイルスのキャリアだった。これは韓国の3%よりはるかに高い。

輸血を含めた病院での治療は、本来無償で受けられるはずだが、そんなシステムはとっくの昔に崩壊している。適時に診察、検査、治療を受けるには医師や看護師へのワイロは欠かせず、必要となる医薬品は、本人か家族が市場で購入しなければならない。
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なお、国営の朝鮮中央通信は、毎年6月14日の世界献血者デーに合わせて、献血の奨励などイベントが行われたとの記事を配信していたが、2021年からは記事が配信されなくなった。おそらく、新型コロナウイルスの国内での感染拡大が関係しているのだろう。