金正恩の身を危険にさらさせた「護衛兵」の驚きの行動

北朝鮮の金正恩総書記が頻繁に利用する特閣(別荘)の警備を担っているエリート部隊所属の19歳の兵士が、古参兵からのイジメに耐えかねて武装したまま脱走した件は、デイリーNKでも既報の通りだ。

それから1週間経った今月4日、特閣に程近い平壌市郊外の市場で発見され、逮捕された。
(参考記事:金正恩の身辺警護を脅かした、脱走武装兵の「恨みつらみ」

デイリーNKの軍内部情報筋によると、護衛司令部81旅団所属の19歳の下級兵士のリ某は、特閣のある平城(ピョンソン)と市境を挟んで隣接する平壌市の恩情(ウンジョン)区域の裴山洞(ペサンドン)市場のそばにあるクッパ(スープごはん)を出す店の前にいたところを、護衛司令部の保衛部(秘密警察)が派遣した私服逮捕組に逮捕された。

彼は、実家に戻れば追手がやってくると考え、部隊に近いこの地域の市場でコチェビ(ホームレス)となり、クッパ屋で練炭を交換する仕事をして食事をもらい、生き延びていたという。

連行された彼は、脱走した理由について次のように供述した。

「コチェビになってでも、ぐっすり眠りたかった。洗濯係や歩哨の身代わりばかり押し付けられるのがいやになり、生活除隊(不名誉除隊)を覚悟して逃げた」

護衛司令部保衛部は、クッパ屋の主人も呼び出して、事情聴取を行った。

それによると、リ某は軍服と軍靴を差し出して「これで何日か助けてくれ」と哀願した。主人は「軍用品はどこで手に入れたのか」と問いただしたところ、「自分はコチェビだ、軍人が泊まっていた宿泊屋(民宿)から盗み出した。タダとは言わない、何日か働かせて助けてほしい」と説明した。

その言葉を信じた主人は、リ某に雑用をさせる代わりに、食事を与え、店の前で寝ることを許したが、まさか本物の護衛司令部の脱走兵だとは思わなかったと述べたという。

なお、脱走時にリ某が所持していた自動小銃や弾倉と空砲は勤務地のそばの山に捨てたとの陳述に基づき、捜索が行われたが今のところ見つかっていない。

武器の紛失は1号身辺の安全問題(金正恩氏の安全問題)と直結する事案だけあり、護衛司令部も必ず探し出せと捜索に全力をあげている。

事件の噂は、裴山洞市場の商人の間にあっという間に広がったが、護衛司令部保衛部は、噂話をしないように取り締まりに乗り出した。また、市内の機関、人民班(町内会)、市場を管轄する保衛員も武器の捜索に動員されている。

不名誉除隊にされる覚悟で逃げたというリ某だが、それだけで済まされると思っていた世間知らずだったようだ。普通の部隊ならともかく、金正恩氏の利用する特閣の警備を任されていた部隊から武装したまま脱走したとあれば、不名誉除隊くらいでは済まされない。
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また、連座制が基本の北朝鮮のこと、彼をこき使っていた古参兵と旅団の幹部にも累が及ぶ及ぶことは避けられない。最悪の場合、複数人のクビが飛ぶだけでは済まされないだろう。
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