すべては「愛欲生活」のため…北朝鮮警察を揺るがした重大事件

北朝鮮の最高人民会議第14期第15回全員会議で、麻薬犯罪防止法が制定されたのは今年7月。以前から刑法に「不法アヘン栽培・麻薬製造罪」が存在したが、新たな法律を制定することで違法薬物、中でも覚せい剤に対する取り締まりを強化しようとする姿勢を改めて示した形だ。

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実際に取り締まりは強化されており、平壌のデイリーNK内部情報筋は、反社会主義・非社会主義連合指揮部が違法薬物を取り締まりの対象とするや、社会安全省(警察庁)麻薬局が血眼になって次々に事件を摘発していると伝えた。その過程で「ワンチョ」(ボス)と呼ばれる製造業者一味を逮捕したが、思いもよらぬ大事件に発展してしまった。
(参考記事:北朝鮮で最高人民会議全員会議…麻薬犯罪防止法を制定

この事件の端緒となったのは、ワンチョこと30代前半の男性のキム某から覚せい剤を受け取り、運び屋と集金を行っていた20代後半の男、リ某の行動だ。
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彼は、覚せい剤を売った代金として客から現金1800ドル(約19万9000円)を受け取り、これをキムに手渡した。札束には100ドル札は含まれておらず、50ドル札と20ドル札がメインで、中には北朝鮮では珍しい2ドル札が混じっていた。キムはそれらを見るや否や、すぐにニセ札だと見抜き、リにこう命じた。

「これをホンモノに替えてこい。その代わり、俺の取り分は半分(900ドル)でいい」

リは平壌市内の市場を回り、商人が売れ残りを慌てて処分しようとする営業時間終了間際や、年配の商人が多い夜の売台(ワゴン)で、タバコ、高級な酒や服、調味料など値の張るものを買い漁った。もちろん支払いはニセ米ドル札だ。

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そうやって買い漁った品物を売り払い、ホンモノの紙幣900ドル分をかき集め、キムに手渡した。

ところが、ニセ札を掴まされたとの通報が商人たちから相次ぎ、市場駐在の安全員(警察官)は状況を安全部(警察署)に報告。その後1週間「ニセ札の被害に遭ったら積極的に通報せよ」との通告が下された。

平川(ピョンチョン)区域の簡易売台で商売を営むある老人が、容疑者特定に繋がる決定的な証拠を提出した。老人は、買い物に来た男が札束から米ドル札1枚だけを抜き取って渡そうとする様子を見て訝しみ、男の顔写真を携帯電話で隠し撮りし、男の差し出した米ドル札を袋に入れて保管しておいたのだった。

安全部は、老人の提出した写真を元にモンタージュを作成、紙幣に付いていた指紋を検出し、捜査を行った。その結果、先月初めにリの逮捕に至った。取り調べでニセ米ドル札の出どころと背景を追及する過程で、彼が薬物取引に関わっていたことが判明した。

なかなか成果を上げられず焦っていた社会安全省麻薬局は、リの陳述内容を元に、平壌郊外の寺洞(サドン)区域の松新(ソンシン)2洞のキムの家に踏み込んだ。平屋建ての彼の家の地下倉庫に、薬物を製造するための実験室があるのを発見、現行犯でキムと同棲している恋人のパク某を逮捕した。

平壌出身のキムは、平安南道(ピョンアンナムド)順川(スンチョン)に住むパクと知り合い、平壌に連れ帰って同棲を始めた。しかし、平壌は許可なくして住むことの許されない都市だ。国家的記念日を控え、宿泊検閲(許可なく住んでいる者がいないかの検査)が強化され、摘発されれば平壌から追放される。
(参考記事:金正恩が焦る平壌の食糧難…解決策は「市民追放」

何とかして2人での暮らしを続けたいキム。2万ドル(約222万円)を支払えば平壌に住まわせてやるとの社会安全省8局(住民登録局)の言葉に、遠い親戚から技術を教わり、薬物を密造、販売し、設けをその都度社会安全省にワイロとして上納していたが、逮捕されたのはそんな最中のことだった。

これだけで相当な問題だが、まだ続きがあった。パクが中央党(朝鮮労働党中央委員会)の複数の幹部に、ツケで覚せい剤を販売していたというのだ。社会安全省麻薬局は、暗号で記された購入者のリストを入手、間に入ってブローカーの役割をしていた貿易会社の社長、チェ某を逮捕した。

チェ社長の営む会社は、金鉱を営み外貨を稼ぎ出し、中央党の組織指導部に上納していたこともあり、中央党はもちろんのこと、国家保衛省(秘密警察)とも繋がりを持っていた。

社会安全省は、8局が密売業者からカネを受け取り、事件に関係していたことなどを含め、このまま捜査を進めると省全体が火の海になりかねず、もはや手に負えないと判断したのだろう。この事案を密かに中央党に報告した。

中央党や国家保衛省の部長級以上が参加する政治講演会で、自首すれば減刑または罪を免除するとの話が出たという。ただ、それを真に受ける者はいなかったようで、今のところ自首した幹部は1人もいない。

さて、チェ社長の身柄は今月初めに、中央反社会主義・非社会主義連合指揮部に移された。これについて情報筋は次のように解説した。

「この事件を知る平壌の人々は、今回の件が中央反社会主義・非社会主義連合指揮部の手に移れば、非常に厳しく扱うのではないかと語っているが、事情を知る幹部たちは、麻薬犯罪に関連した中央党幹部らを助けるために、チェ社長がトカゲのしっぽ切りとなったと語っている」

チェ社長が口を開けば、多くの幹部が無事で済まされないだろう。そこで、問題が起きないように彼を「静かに処理する」という方法を取るのではないかというのが、情報筋の見立てだ。

つまり、裁判などを行わず、非公開で処刑し、口封じをするということだろう。
(参考記事:「女性所長をハンマーで処刑」金正恩体制の知られざる闇