金正恩が見せた「殺人者の顔」写真に戦慄した北朝鮮国民

北朝鮮の金正恩総書記は今月8日~11日に開かれた朝鮮労働党中央委員会第8期第2回総会で、経済指導部門が立案した政策を厳しく批判。わずか1カ月前に就任したばかりの党経済部長を交代させた。

金正恩氏の怒りの激しさは、国営メディアが流した映像にも表れた。朝鮮中央テレビは、壇上で発言中の金正恩氏が厳しい表情で何か(誰か)を指さし、何らかの指摘を行っている場面を流した。指をさされたのが人間だったら、生きた心地がしなかっただろう。金正恩氏は以前、行事の途中で居眠りした軍人たちの写真を撮らせて置き、粛清した前例があるからだ。

また、金正恩氏が叔父の張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長を処刑し、さらには異母兄の金正男(キム・ジョンナム)氏を殺害した時には、国営テレビに映った「凶悪な顔」が国民の間で話題になった。(参考記事:【写真】金正男殺害の直後「凶悪な表情」の正恩氏に北朝鮮国民が戦慄

張成沢氏の処刑は国内メディアで公表した上で行われたが、金正男氏の暗殺については当初、大多数の北朝鮮国民はまったく知らなかった。それでも、事情を知るごくわずかな人の間では「あれこそ殺人者の顔だ」との声が上がり、テレビで金正恩氏のただならぬ表情を見ただけの人々も、「何かとてつもなく悪いことが起きているのではないか」と震え上がったという。

金正恩氏は、父の故・金正日総書記と比べ表情の豊かな指導者だ。金正恩氏はむっつりと無表情な印象が強く、笑顔もあまり見せなかった。それに対し金正恩氏は、破顔大笑しているように見える場面が少なくなく、衆目の前で涙を浮かべることもある。

だが、父親と金正恩氏とで最も異なるのは、やはり「怒り」の表情だと思われる。金正日氏の場合、怒りの強さを表情からうかがうのは難しかった。しかし金正恩氏は、怒っていることが表情からわかるだけでなく、自分の怒りがどれほど激しいかをアピールするような映像や写真が少なくない。(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導】

この差は、メディアや情報に対する認識の違いから来ているものと思われる。旧ソ連を筆頭に、旧社会主義圏は徹底して秘密主義を取った。敵に情報を与えず、戦略立案を妨害するためだ。そしてその時代には、インターネットも携帯電話もなく、小指の爪ほどの大きさのチップにギガバイト単位の情報を記録する技術もなかった。情報の統制は、今よりはるかに簡単だったから、「敵に知らせれに済むことは、知られないようにしよう」という選択が可能だった。

しかし今は、情報の統制がはるかに難しくなった。隠しているつもりの情報が、実は相手に知られていた、というケースはいくらでもある。そのため現代の指導者である金正恩氏は、父に比べ「隠すこと」に無頓着になったのではないか。

だが現代においても、ポーカーフェイスの利点はなくなったわけではない。金正恩氏も年齢を重ねるにつれ、表情を隠すようになるかもしれない。