ワイロで山奥の学校への配属を逃れる北朝鮮の新米教師たち

北朝鮮で1993年に制作された映画「都会の娘、嫁に来る」。都会のアパレル工場で成功したヒロインが、支援に行った先の農村で出会った男性と結婚するというストーリーだ。映画としての出来がよくても、この設定を真に受けて農村に行こうとする女性がいたとすれば、家族、友人が総出で止めにかかるだろう。

北朝鮮の地域間の格差は壮絶だ。首都・平壌の生活レベルは中進国くらいと言われているが、山奥には電気や水道すらない地域もある。現金収入を得られる数少ない場である市場が遠い場合が多く、貧困から抜け出す機会も中々得られない。

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そんな山奥の村から抜け出す唯一の道が教育だが、そのかすかな希望すら失われつつある。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、内閣の教育省が全国の教育実態に関する調査を行っていた途中、ある郡の山間部にある学校が教員不足に陥り、子どもたちの教育に支障を来していることを発見した。

咸鏡北道の教育部は、道内の師範大学を卒業した若い教師を各地の学校に配属するのだが、ここでも北朝鮮社会の他の分野と変わらずワイロが飛び交っていた。山奥の学校への配属をなんとしても避けたい教師やその家族が、教育部にワイロを掴ませていたのだ。

情報筋は詳細に触れていないが、ほとんどの教師がワイロを払い、都市部の学校に配属されたため、農村の学校で教師不足が発生したものと思われる。山奥の農村に行かされるのは、それほど嫌なことなのだ。

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教育部は、実態を把握、上部に報告する責任があるが、そんなことをすれば自分たちの不正行為が発覚しかねない。また、道党委員会(朝鮮労働党咸鏡北道委員会)も教育部に対する指導を怠った。

内閣の教育省は今月1日、全国の学校の土曜学習の時間に検閲グルパ(監査班)を派遣する方針を示した。また、道党委員会の幹部や、過去3年間の教員配置文献と当該の教師を取り調べ、問題があれば責任を負わせよと指示を下した。

同時に、道の教員講習所に、専門学校を出た若者のうち成績が優秀で、忠誠心の高い若者を募集し、教師として養成することも指示した。

教育省は、この問題の原因が農村の立ち遅れた教育環境にあると見ているが、貧困、地域格差という根本的な問題が解決しない限り、いくら取り締まっても時間が経てば元の木阿弥となるだろう。

そもそも、農村部の学校の教育の質は低く、大学に進学させるほどの人材を育てるのは難しい。また、学校は親たちに様々な費用負担を要求するが、親たちにはそれに応じるほどの経済的な余裕がない。

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「北朝鮮では教育は無料ではないのか」という疑問を持つ読者もいるだろう。北朝鮮は未だに「すべての教育は無償」と主張しているが、実際は教科書、制服から様々な学校施設に至るまで、父兄がその費用を支払わされる。

もし子どもが大学に行けることになっても、その費用負担は極めて大きい。教授からワイロを求められることもある。農村から大学に行くことなど夢のまた夢。かくして、地域格差は解消するどころか、拡大する一方というわけだ。