北朝鮮は今後どうなる…建国70周年と米朝関係、非核化
北朝鮮は2018年9月9日、建国70周年を迎えた。
金正恩国務委員長(朝鮮労働党委員長)国際社会からの強力な制裁に抗いながら、2017年中に核兵器の「完成」を宣言。2018年に入ってからは対話路線に大きく方針転換し、韓国の文在寅大統領、中国の習近平国家主席と相次いで会談。6月にはトランプ米大統領との、史上初の朝米(米朝)首脳会談を実現させた。
34歳の若さでのこの「実績」は、実際のところ、祖父の金日成主席や父・金正日総書記と比べても遜色のないものと言えるだろう。
「ゴール」は2020年
では、北朝鮮の今後はどうなるのだろうか。それはひとえに、非核化の進展と、米朝関係の改善にかかっていると言える。
北朝鮮が今後どうなるかを占う上で、まず時期的なゴールとして見えてきたのが、2020年だ。金正恩氏は9月5日に訪朝した韓国の大統領特使団と会った席上、トランプ氏の1期目の任期内に非核化を実現し、朝米関係を改善したいとの意向を示した。次の米大統領選挙は2020年11月に予定されている。
(参考記事:「非核化、トランプ氏の1期目の任期内に」金正恩氏が表明)トランプ氏も容認
こうした金正恩氏の発言に対し、トランプ米大統領は同月6日、米モンタナ州での集会で行った演説の中で「素晴らしい」と評価。北朝鮮の非核化について「ゆっくりやればいい」と述べ、長期化を容認する姿勢を示した。
トランプ氏は8月下旬、ポンペオ米国務長官の訪朝中止を発表した際、「非核化に関して重要な進展が見られない」と不満を表明していた。しかし、米朝両国は今後、時にこうした曲折を経ながらも、2020年の恐らく半ばごろを見据え、非核化のための対話を続けていく可能性が高い。
北朝鮮では党大会
ちなみに2020年は、北朝鮮で朝鮮労働党の第8回党大会が予定されている年でもある。
党大会は、北朝鮮で最も権威の高い大会だが、2016年5月に第7回大会が行われるまで36年間も開かれなかった。破たんした経済政策の総括が困難だった事情に加え、金正恩氏の父である金正日氏が、党や行政上の手続きを踏むよりも、自らの裁量で機動的に(自由気ままに)物事を進めることを好んだためだ。
金正恩氏は「有言実行」
それに対して金正恩氏は、重要政策を公の場で自ら宣言し、その成果を公の場で総括する「有言実行」スタイルだ。これは、核兵器開発においても見られた。金正恩氏は間違いなく、2020年を自身と北朝鮮にとって重要な節目とする考えを持っている。
ちなみに、金正恩氏が推進する大規模な建設プロジェクトは、いずれも2019年から2020年にかけての完成が厳命されている。ただ、建設工事に関する北朝鮮の能力に比べ、ムリな工期設定がなされているとの指摘があり、事故多発や工期の遅れも懸念されている。
(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真)「裕福で文化的な生活」目標
朝鮮労働党中央委員会は4月20日に平壌で行われた第7期第3回総会で、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を停止するとの決定書を採択。同時に、今後は経済建設に注力するとの方針を示した。
(参考記事:北朝鮮「核・ICBM実験停止」を決定、核実験場も廃棄)金正恩氏は総会で行った演説で「わが共和国が世界的な政治・思想強国、軍事強国の地位に確固と上がった現段階で全党、全国が社会主義経済建設に総力を集中すること、これがわが党の戦略的路線である」と宣言。続けて「人民経済の主体化、現代化、情報化、科学化を高い水準で実現し、全人民に何うらやむことのない裕福で文化的な生活を与える」との目標を示した。
幹部を処刑
「有言実行」を自身のポリシーとする金正恩氏にとって、これは非常に重い課題である。
金正恩氏は最近、経済部門の視察に力を入れており、現場の担当幹部を激しく叱ることも珍しくない。金正恩氏は2015年8月、スッポン養殖工場の管理状態が「なっていない」と激怒し、支配人を処刑してしまったことがある。
(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導)それを知る各現場の担当幹部たちは、さぞや生きた心地がしないだろう。
「終戦宣言」にこだわる理由
金正恩氏にとっては、すでに宣言してしまった経済発展を達成するためにも米朝関係の改善は必須であり、いますぐにでも必要になるのが朝鮮戦争の「終戦宣言」だ。
北朝鮮の建設現場や農場で重要なマンパワーとなっているのが、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士たちだ。今後、経済建設にいっそう注力するためには、こうした現場により多くの兵力を振り向けなければならない。また、兵器開発や各種装備の維持・管理に投じられているコストを、大幅に削減する必要もある。
北朝鮮が米国に対し、早期の終戦宣言を強力に要求するのは、関係改善を象徴する「ステップ」としての意味もあろうが、「経済重視」にシフトする根拠としても重要であるためと思われる。
投資は中国と韓国から
北朝鮮経済の好転のためには、外部からの投資も必要になるが、この点で金正恩氏が期待しているのは、米国ではなく中国と韓国だろう。
トランプ氏は7月20日、北朝鮮人権法を2022年まで延長する法案に署名し、成立させた。同法は、北朝鮮の人権問題が改善しない限り、米国が北朝鮮に対して人道支援以外の援助を禁じるものだ。
(参考記事:金正恩氏がトランプ氏に「言いたくても言えない」あの問題)これにより、米国政府は北朝鮮に対して経済支援を行うことができなくなっているのだ。実際、ポンペオ米国務長官は5月9日に金正恩氏と会談した後に行われたFOXテレビのインタビューで、北朝鮮が完全な非核化に応じた場合、見返りとして民間資本を主体とした経済支援を行うことについて言及している。
災害のダメージ
民間資本による投資では、北朝鮮にとって必要な道路・電力・港湾などのインフラ整備には不足する可能性がある。だから大型の資金援助は、やはり中国や韓国に頼ることになるのだろうが、この両国としても、米朝関係が良好でなければ自由に動くことはできない。
もっとも、たとえ米朝関係がうまく行ったとしても、それだけで北朝鮮の未来が明るいと言えるわけはない。北朝鮮は毎年のように、自然災害によって手ひどいダメージを受けている。こんなことが続いていたら当然、経済全体にシワ寄せが行く。
(参考記事:金正恩氏の「権威失墜」…北朝鮮の危険指数は世界最悪レベル)しかしいずれにせよ、北朝鮮が今後どうなるかを占う上で、最大の焦点が米朝関係であることは今後も変わらないだろう。
南北首脳会談に注目
そして当面の動きとして注目したいのは、韓国の文在寅大統領が9月18日から訪朝し、2泊3日で行う南北首脳会談の結果だ。前述した韓国の大統領特使団が北朝鮮側と合意した会談の議題には、朝鮮半島での恒久的な平和定着および共同繁栄のための問題、特に朝鮮半島の非核化に向けた実践的な方案が含まれるという。