北朝鮮からの越境犯罪に激怒か…中国側から「悪口」放送
「このコジキみたいな泥棒野郎どもめ!泥棒しに来るな!」 「また来やがったら手をぶった切ってやる!」
これは、コソ泥に怒りをぶちまける市場の商人の罵詈雑言ではない。 中国の辺防部隊(国境警備隊)のスピーカーから、北朝鮮に向けて流れ出たものだ。
北朝鮮の両江道(リャンガンド)金正淑(キムジョンスク)郡で最近、こんな罵りが大音響で響き渡った。国境を流れる鴨緑江の向かいは、中国吉林省の長白朝鮮族自治県だ。
現地の情報筋によると、放送は8月18日に行われた。拡声器から急に、北朝鮮に向けて怒鳴り声た聞こえ始めたのだという。最初は中国語で、次いでご丁寧にも朝鮮語に訳して放送が行われたとのことだ。それも、スピーカーを積んだ車両が、金正淑郡から道庁所在地の恵山(ヘサン)の向かいに至るまで、走行しつつ3時間に渡って北朝鮮を罵り続けたという。
これが、中国当局の指示に基づき行われたのか、現場の判断で行われたのか、今のところ確認されていない。
中国の国境地帯に住む人々は、好むと好まざるとにかかわらず北朝鮮と向き合って暮らさざるを得なかった。それにより利益を得ることもあれば、著しい不利益をこうむることもあった。
1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころから、中朝国境は密輸、脱北の最前線となった。飢えから逃れるために国境を越える人もいれば、出稼ぎに行く人もいた。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の情報筋は2016年4月、中国遼寧省丹東郊外の食堂が、国境を超えてやってくる朝鮮人民軍の兵士らの物乞いに悩まされていると報じている。
(参考記事:脱北兵士の物乞いに悩まされる中国の住民たち)この程度なら序の口だ。北朝鮮との国境に面した村では、朝鮮人民軍兵士による強盗殺人が相次ぎ、地域住民が自警団を結成するなど、緊張状態に置かれた。
(参考記事:北朝鮮軍兵士44人が脱走、一部が中国で強盗殺人)その後、中朝両国の国境警備が強化され、脱北や密輸が困難になったことが関係しているのか、同様のニュースは伝えられなくなったが、今回の罵詈雑言は、国際社会の制裁で苦境に追いやられた北朝鮮の一般住民や兵士による犯罪が再び増加しているためと見ることも可能だろう。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
今年7月4日には、遼寧省丹東市郊外の寛甸の民家に、朝鮮人民軍兵士2人が押し入り、納屋から食べ物を盗もうとしたところを、村人に取り押さえられる事件が起きている。
このニュースを伝えた現地の情報筋は、空腹に耐えかねて国境を超えて食べ物を盗もうとした事件はここ数年なかったとして、食糧配給の減少に加え、当局の密輸への取り締まり強化で、密輸業者からのワイロが受け取れなくなったことが犯行の背景にあると指摘した。
つまり、地域経済に組み込まれていた密輸が困難になり、それに伴って生じていた兵士らの収入(ワイロ)がなくなったことで、追い込まれた人々が中国で犯罪に走っているということだ。しかし、北朝鮮当局は地域住民に責任をなすりつけるだけで、抜本的な対策に乗り出そうとはしていない。
この罵詈雑言放送を耳にした地域の保衛員(秘密警察)は即時、郡の保衛部に通報した。その後、保衛員と宣伝副委員長がやってきて、住民を集めた場で「一般住民には警戒心がない、革命的警戒心を高めよ」などと話したという。つまり、「革命精神も警戒心も足りないから、川を渡って中国で要らぬことをする、だからこんなことになったのだ」と責任を一般住民に押し付けたわけだ。
さらに、「郡党(朝鮮労働党金正淑郡委員会)通報課、保衛部、保安署(警察署)の電話番号を人の集まるところに貼り出せ」との指示を下したが、「なぜ川を渡らなければならないのか」ということに対する解決策は示さなかった。