金正恩「身内も処刑」で見せた暴力性と向こう見ずさ

北朝鮮の金正恩総書記が実質的に権力を継承してから、17日で10年となった。大陸間弾道ミサイル(ICBM)など核戦力の実戦配備を成し遂げたうえに、史上初の米朝首脳会談も実現させ、祖父・金日成主席と父・金正日総書記に劣らぬ強固な独裁体制を築いた。

しかし金正恩氏には、先代までの最高指導者と比べ明らかに欠ける部分がある。実利主義だ。

金日成氏は中国とソ連・東欧の社会主義圏から、金正日氏は中国と韓国から、大規模な経済支援を引き出した。金正日時代には、日本からさえ食糧支援を引き出している。

それでいて、交渉相手に譲歩した部分は本質的には何もない。彼らの時代、北朝鮮経済はずっと脆弱なままで、1990年代の「苦難の行軍」など深刻な危機も招いたが、いわゆる「瀬戸際外交」で実利を引き出す狡猾さがあった。そして、そのように引き出した利益を原資に、国民を生かさず殺さず、自らに付き従う既得権層には褒美を振舞うやり方で、独裁体制を保ってきたのだ。

ところが金正恩氏は、「核の威力」を武器に、世界の人々の頭上に高々と「北朝鮮ここにあり」とぶち上げるものの、なかなか実利を確保できない。つまりは看板倒れなのだ。首都・平壌のエリート層の中には核武装に誇りを感じる空気もあるというが、大半の国民はシラケている。富を求める権力層もそうだ。

振り返ってみれば、2013年に叔父の張成沢(チャン・ソンテク)元朝鮮労働党行政部長を処刑したときが転換点だったかもしれない。かつて「国内ナンバー2」と言われた張成沢氏の実力は、利権をもたらす国内外の人脈にあった。それは中国にもつながっており、つまりは金正日時代の実利主義を体現する人物だったのだ。
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しかし、金正恩氏は張成沢氏につながる国内の人脈を無慈悲に粛清した。それ以降、北朝鮮の「実利」を体現する高官は見当たらなくなった。ちなみに金正日氏は、数度にわたり張成沢氏を失脚させながら、結局は自分のもとに呼び戻し、側近として使いこなした。

つまり金正恩氏は、持ち前の暴力性を武器に独裁権力を固めるため、「実利」を握り増長気味だった勢力を犠牲にしたわけだ。

結果的に、金正恩氏は強力な独裁体制を築くことができた。しかしそれは、何ら実利的な希望を生むことのない、空虚なハリボテにすぎないのではないか。