「あまりにくだらず衝撃的」金正恩の“自慢話”に国民が唖然

北朝鮮当局は最近、今まで以上に思想教育に注力するようになっている。その主な対象は若者だ。

国から食糧や生活必需品の配給を受けた経験があまりなく、商売などで自分の力で生きてきた若者は、国や指導者に対する忠誠心が薄く、国や社会より個人を優先する傾向が強い。

当局は、そんな思想動向が国の根幹を揺るがしかねないと考え、思想教育を強化している。だが、表面的にはおとなしく従うふりをして、裏ではやりたい放題の若者に思想教育を強化したところで、砂漠に水を撒くも同然だろう。
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当局は若者に加え、全国の幹部、朝鮮労働党員、一般労働者に対する思想教育を強化しているが、これは無視を超えて怒りを巻き起こしていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:北朝鮮、若者の思想を統制「青年教育保障法」導入へ

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、先月下旬から毎週水曜日に「金正恩革命史学習会」の時間が設けられ、学習が行われていると伝えた。その内容とは次のようなものだ。

「元帥様(金正恩氏)が人民生活向上のため、経済強国建設において決定的転換を起こした」

昨年1月から、コロナ対策として国境を封鎖したことで貿易が完全にストップ。国内は深刻な食糧不足とモノ不足に陥り、人々の生活苦は深刻さを増すばかりだ。そんな現実とはかけ離れた、「金正恩氏のおかげで豊かに暮らせている」という思想教育に接した人々は、驚き、怒っている。

「荒唐無稽な内容で、(学習会の)参加者は舌打ちしている」
「元帥様が農産、畜産、水産の3つの軸で人民の食の問題を解決し、食生活の水準を高めたと主張している」
「元帥様が党の路線と政策も、経済建設の成果も、実際の人民生活、人民の食卓の上に現れるべきとしたと強調する学習内容に、住民は『あまりにくだらない』と言葉を失い、衝撃を受けている」(情報筋)
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

人々は、経済難を生き抜くために必死になっているのに、「食卓の上に経済建設の成果が現れている」と強弁する内容に激しく反発しているのだ。
(参考記事:「今年のキムチは諦めた」深刻な野菜不足の北朝鮮

人々を怒らせているのはそれだけではない。学習の時間がとにかく長いのだ。

RFAが入手した学習提綱(レジュメ)には、幹部は11月の2週間の間に1時間の講義、党員と労働者は11月上旬に45分の講義を行うと書かれているが、実際には半日以上話を聞かされた上に、テストまで受けさせる。そのせいで、市場で商売する時間が削られてしまい、生活に大きな影響が出ているのだという。

この手の学習会は、参加しなければ問題となるためとりあえず参加はするものの、居眠り、内職、お喋りで時間をつぶすのが普通だ。ただ、テストまで行うとなれば、否が応でも講演者の話に耳を傾けざるを得ない。
(参考記事:「社会主義は教育が大切」講演会に北朝鮮国民の冷淡な反応

両江道(リャンガンド)の情報筋も、現地で思想学習が強化されていると伝え、「人民生活向上と経済強国建設において決定的転換を起こすことは、社会主義を抹殺しようとする帝国主義者どもや反動どもの策動を叩き潰し、社会主義の優越性と威力をさらに高く発揚している」といった内容が伝えられているという。

多くの住民はおおっぴらに語ってはいないものの、「核兵器やミサイル開発に天文学的な額の資金を投入することが、人民の食糧問題の解決しようとする指導者のやることか」と反発していると情報筋は伝えた。また、「社会主義強国(を叫ぶの)はやめにして、最小限の人民の食の問題を解決してから、領導業績を宣伝すべきではないか」との反応も示しているとのことだ。