金正恩「警護大隊」の解体に発展した19歳エリート兵の無念の死

北朝鮮の金正恩総書記の「特閣」(別荘)で壮絶な虐待を受けていた護衛兵が今年9月、脱走して中国に逃げ込む事件が起きた。

その後日談が明らかになった。

三池淵(サムジヨン)特閣から逃亡した19歳の兵士・リョム氏は5日後に逮捕され、取り調べを受けた上で先月7日、平壌の保衛局保衛旅団の兵士や本部課長級以上の軍官(将校)が見守る中、公開処刑されたという。

金正恩氏の警護にあたる超エリート部隊の兵士たちは、思想や成分(身分)に問題がないことが求められるのはもちろん、一時帰宅はおろか家族への連絡すら許されていない。虐待の被害者といえども、規則を破った罪は許されなかったのだ。

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の通常の入隊年齢は16〜17歳。ところがリョム氏は学校を出て職場に務め、19歳になってから入隊した。

保衛局で勤務経験を持つ彼の父は、息子の上官に当たる三池淵特閣護衛大隊の大隊長に「息子が年をとってから(軍に)入ったので、よく面倒をみてやってほしい」と頼み込み、彼は上官から良い待遇を受けていた。これが、「コネでいい思いをしている」という妬みを買ってしまい、全裸で性的な行為を強制されるなど、年下の先任兵から壮絶なイジメを受けたのだ。

エリート部隊と言っても、各自の人格まで優れているわけではない。むしろ閉鎖的な環境は、人間性の歪みを増幅するのかもしれない。
(参考記事:女子高生を惨殺「金正恩のボディーガード」の鬼畜行為

イジメの被害者なのに処刑されるとは、リョム氏とその家族はどれほど無念だろうか。

こうした一連の出来事について報告を受けた保衛司令官は「こんな現象がなぜ起きるのか」と激怒し、政治部に各部隊の調査を行うよう指示。個人談話(面談)や無記名でのアンケート調査などを行っている。また、リョム氏へのイジメに加担していた先任兵全員は、教化所(民間人が収監される刑務所)送りになるところだったが、労働連隊(軍刑務所)行きとなった。

今回の事態が外部に知られることを恐れての措置で、保衛局は加害者に対して、事件の詳細を他言しないように誓約書を書かせ、10本指の指紋を捺印させたという。彼らは刑期を終えても、元の部隊への復帰は許されず、炭鉱送りとなる見込みだ。

いずれも成分(身分)のいい家の出と思われ、将来を約束されたはずだったが、今回のイジメに加担したことで、社会的に抹殺されたも同然の処遇を受けることとなった。
(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」

また、事件が発生した三池淵特閣の保衛大隊の大隊長、政治指導員、保衛指導員に対しては、出党(朝鮮労働党からの除名)、撤職(更迭)、除隊の処分を下し、大隊そのものを解体してしまった。三池淵特閣には、新たに立ち上げられた別の大隊が送り込まれ、警備にあたっている。事件の痕跡そのものを消してしまおうというのだろう。

一方、保衛局はリョム氏の家族を訪ね、部隊の監督不行き届きでこんな事態になったと哀悼の意を示し、「護衛大隊でこんなことが起きたのは、元帥様(金正恩氏)の権威毀損にも直結する問題であるため、他言しないのが(朝鮮労働)党の原則」だとして、他人に話さないという誓約書を取り付けたという。

通常、脱北者の家族となれば監視や抑圧の対象となるところが、ここまでの対応を行うのは、保衛局(軍秘密警察)での勤務歴があるとされるリョム氏の父親が、かなりの地位にいた人物であることが考えられる。

さて、解散させられた大隊に勤務していた軍官の中で、今回の事件に関連していない者もとばっちりを受けている。本来なら三池淵特閣護衛大隊出身の軍官には、平壌市民証が与えられ、平壌での居住が許されるのだが、大隊の解散で別に部隊に異動させられ、市民証が没収されてしまったのだ。

最近は以前ほどの厚遇は期待できないとはいえ、平壌に住めるのは特権中の特権。自分に過ちはないのに、散々な目に遭った軍官は怒り心頭だという。
(参考記事:北朝鮮「軍将校30年生活」の末の暗転…金正恩体制に反発