軍と国家が一斉に農場を襲う、北朝鮮「食糧難」の末期症状

北朝鮮で今年もまた、コメ争奪戦が始まった。

国際社会の制裁、相次ぐ自然災害とそれに対応する防災インフラの欠如、そしてコロナ鎖国の三重苦で苦しめられている北朝鮮だが、その影響は農業を直撃、今年の作況は例年にもまして悪いと伝えられている。
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黄海南道(ファンヘナムド)と平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、協同農場の収穫物に食糧を依存している朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は、各軍団の後方部に軍糧米を徴発するチーム「コメ接取組」を立ち上げ、今月中旬に各地の農場に送り込んだ。

食糧不足に喘ぐ軍にとって、軍量米の確保は実戦にも増して重要な戦いだ。
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彼らは「今年は軍糧米保障が優先」との指針の下に、農場内にテントを立てて居座り、計画通りの量を確保しようと脱穀場にコメを運び込んでいる。農場に設置された脱穀場を共同で使うのではなく、軍独自の脱穀場を組み立てて脱穀を行い、すきあらばコメを取り戻そうとする農民を完全シャットアウトしている。

独自の脱穀場を設置できなかった場合でも、脱穀場に垣根のようなものを立てその上に220ボルトの電流を流し、厳戒態勢を敷いている。

軍当局は、担当者がもし計画通りに進められなかったら、軍事裁判にかけると脅迫するほど、食糧確保に血眼になっている。以前なら批判を受けたり、降格させられたりする程度だったが、今年はそれ以上の処分が確実なため、担当者は相当のプレッシャーを受けている。

各地から凶作が伝えられる中でも、計画量は昨年より多めに設定されている。もし量を確保できなければ、部隊でカネを集めて市場でコメを買ってでも量を確保しなければならないとの話が出ているとのことだ。

担当者がコメ集めを迫られる背景には、金正恩総書記の下した方針(1号方針)がある。食糧を確保し、栄養失調にかかる兵士が出ないようにせよというものだ。
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農民からコメを奪い取ろうとしているのは軍だけではない。地元の人民委員会(市役所)の糧政事業所の担当者も、農場にやって来て、定められた量のコメを無条件で確保するとしようとしている。また、農民がコメを市場で売る行為を根絶せよとの指針が下され、農場の入口にはチェックポイントが設置されている。

これは、市場での穀物の取り引きを禁じ、国営の国家食糧販売所での販売に一本化し、穀物価格を安定させようとする政策が背景にあると思われる。
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そんな状況だが、農民の反応は昨年までとは打って変わり、意外と落ち着いたものだという。協同農場での収穫後に農民に分配される穀物の量は昨年の半分程度に落ち込むと見られているが、その反面、トゥエギバッ(個人の畑)での収穫が増え、それなりに食べていける状況になったからだという。つまり、協同農場での農作業はそこそこにして、個人の畑に力を入れ、作物を丹精込めて育てたということだ。

また、穀物の持ち出しについても昨年は一切認めていなかったのが、今年は軍用のリュックに入る13〜15キロ程度なら見逃していることも、農民は必死の抵抗をしなくても済む状況を生み出しているようだ。