スマホで転送したら死刑になる北朝鮮「恐怖の文書」

徹底的な秘密主義を貫く北朝鮮では、他の国なら当たり前のように公開されている情報ですら秘密扱いとされ、下手に他人に漏らせば命取りになりかねない。

最近の例を挙げると、人民保安省内のすべての主要書類、機密文書、最高指導者に関する記録をアーカイブに保管している紀要連絡所の所長が、国勢調査の結果を妻に話したことで噂が広がり、公開処刑された件がある。
(参考記事:金正恩の極秘情報をたまたま知った「平凡な主婦」の悲惨な運命

そしてまた、「どうでもいい書類」のせいで、貴重な人命が奪われようとしている。国内の書類をチャイナ・テレコムなどの中国キャリアの携帯電話を使って海外に転送しようとした容疑で、男性が逮捕されたのだ。
(参考記事:【写真】美人女優ピョン・ミヒャンの公開処刑で幕を閉じた「禁断の映画」摘発の内幕

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、逮捕されたのは恵山(ヘサン)市の淵豊洞(ヨンプンドン)に住む40代のリさんだ。中国キャリアのスマートフォンを使って、国内の機密文書を国外に転送、漏えいしたスパイ容疑だ。

彼が送ろうとした書類は、最近修正された中央非常防疫司令部防疫手則の15項目、要するにコロナ対策が書かれたものだ。他の国ならメディアを通じて大々的に公表されているようなものが、国家機密扱いとなるのだ。

ただ、リさんが海外に流出させた書類はこれだけではないようだ。

両江道保衛局(秘密警察)は、彼が職場にも通わず市場での商売も行っていないにもかかわらず、裕福な暮らしをしていることに、数年前から目をつけていた。多くの人が経済難にあえぐ中でも、何の支障もなく暮らしていたことから監視を強め、10局(電波探知局)を動員して、彼の家の近所で通信状況のチェックを行ってきた。

彼がどのような暮らしをしていたのか、詳細は不明だが、金持ちであることが他人に知られてしまうような暮らしぶりだったのだろう。

北朝鮮では金持ちであることそのものが罪悪視され、下手をするとイチャモンをツケられ財産を奪われかねない。また、保衛部、安全部(警察署)、朝鮮労働党などにたかられるリスクも高まる。そのため、カネが持っていたとしても、できる限り知られないようにするのだ。
(参考記事:金正恩の「拷問部隊」が手を染める悪徳三昧の新商売

さて、逮捕されたリさんの自宅からは、中国キャリアの携帯電話2台と、18万元(約308万円)もの大金が発見された。保衛部は、カネと携帯電話の出どころについて集中的に取り調べているが、その過程で、2018年から中国の携帯電話を使って国内の資料を南朝鮮(韓国)に送り、その代償として毎月活動費を受け取っていたとの供述が得られたとのことだ。

リさんは、道党(朝鮮労働党両江道委員会)、保衛局の一部幹部を通じて情報収集を行っていたと供述。今後、これら幹部に対する調査、粛清が行われるものと見られている。

ただし、北朝鮮での取り調べには拷問がつきものだ。激しい拷問の末に、保衛部が組み立てたストーリー通りの供述を強要された可能性も否定できない。
(参考記事:「拷問の苦しみを理解する」北朝鮮の若者が残した遺書の凄絶な中身

脱北して韓国や中国に住む人からの送金を、北朝鮮に残してきた家族に届ける送金ブローカーに対する取り締まりが強化されているが、自宅にあった多額の現金が韓国から受け取った活動費とみなされ、スパイ容疑が適用される事例が他にも起きている。

また、現在両江道では、中央から派遣された取り締まりグルパが活動しており、自分たちの「シマ」が荒らされた形となった地元の保衛部が、点数稼ぎのために、リさんらをスパイに仕立て上げた可能性も考えられる。
(参考記事:金正恩の拷問部隊にハメられた「20代女性スパイ」の運命

さて、リさんを待ち受けている運命だが、韓国とのやり取りがあったとされたため、少なくとも管理所(政治犯収容所)行きになるものと見られる。情報筋も「スパイ行為の現行犯で逮捕されたため、生き残る可能性は低い」と述べた。また、当局は今回の事件を利用して、中国キャリアの携帯電話の使用禁止令の正当性を改めて宣伝するだろうと情報筋は見ている。

中央のグルパ、地元の保衛局、安全部が入り乱れての「掃討作戦」が大々的に繰り広げられる中、今まで国外とのやり取りをしていた人たちは、息を潜めて嵐が過ぎ去るのを待っている。ただ、コロナ鎖国による経済難の中、生きていくために命がけで国外とやり取りをする人もいるとのことだ。