金正恩「ミサイル連射」の背景に社会の深刻な混乱

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は29日、国防科学院が前日午前、北部・慈江道(チャガンド)に位置する龍林(リョンリム)郡の都陽(トヤン)里で、新たに開発した極超音速ミサイル「火星8」型の試射を行ったと明らかにした。北朝鮮はこのところ、新型ミサイルや新たな発射方式による試射を繰り返している。

韓国軍合同参謀本部によれば、北朝鮮は28日午前6時40分ごろ朝鮮半島東の海上に向けて飛翔体を発射したと発表。飛翔体は発射直後に高度30キロまで上昇し、一定区間放物線を描いて下降した後、低高度の水平飛行を続け、距離200キロに達せず落下したと見られるという。飛行特性を見ると、確かに極超音速ミサイルの実験のように見える。

同通信によると、試射には朝鮮労働党中央委員会の朴正天(パク・チョンチョン)書記が立ち会っており、金正恩総書記は立ち会わなかったもようだ。金正恩氏は今年1月に開催された朝鮮労働党第8回大会で「近い将来、極超音速滑空飛行戦闘部を開発導入する」と表明していた。

また同通信も今回の報道で、「第8回党大会が示した国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画の戦略兵器部門の最優先5大課題に属する極超音速ミサイルの研究開発は順次的かつ科学的で頼もしい開発プロセスに従って推し進められてきた」と説明している。

こうした経緯を眺めると、北朝鮮は自らの計画に沿って、着々と軍事力の強化を進めているようにも見える。だが、新型コロナウイルス対策で国境封鎖を続ける北朝鮮は、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のとき以来の経済難に直面していると見られる。当時と同様に治安が悪化し、社会に混乱が生じる兆候も見られる。
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そのようなときに何故、ミサイル試射を続けるのか。各国の専門家の間からは、「北朝鮮は関心を引きたがっている」との分析も出ている。

確かにそういう部分もあるかもしれない。ただ、飛距離の短いミサイルの試射では、米バイデン政権の関心を引くには不十分だろう。核実験か、せめて中距離弾道ミサイルの発射でなければ、効果は見込めない。

そこで思い至るのが、金正恩氏にとってミサイル開発の成功は、国内外で認められたほとんど唯一の「成果」だということだ。父・金正日総書記の時代、北朝鮮のミサイル技術は戦力化に向け大きな進展を見せず、実戦配備された中距離弾道ミサイルのムスダンは完全な失敗作であったことが後に明らかになった。

それを金正恩氏は、自ら直接指導して、米国をして「脅威」と感じさせるほどの水準に引き上げた。

だが、そこまでだった。軍事的な威力をテコに米国の妥協を引き出す戦略は上手く行っておらず、国連安保理の経済制裁が緩和されない中、世界のどの国からも大規模な経済支援を得られずにいる。コロナ禍の中での国難も、その下時には金正恩氏の失政があるのだ。

そして、国内で混乱が迫り、外交も行き詰る中、金正恩氏が自らの「威信」を示す手段は、ミサイル開発の「成果」を繰り返しアピールすること以外になくなっているのかもしれない。