北朝鮮で児童ねらう凶悪事件…飢えと犯罪「暗黒時代」よぎる

かつては犯罪とは無縁とさえ言われたこともあった、北朝鮮社会。しかし、市場経済化の伸展に伴い貧富の差が拡大、金持ちを狙った犯罪が増えていると伝えられている。2018年には平壌の外貨商店支配人の孫娘を誘拐し、2万ドル(当時のレートで約227万3000円)の身代金を要求する事件が起きている。

もっとも、このような事件は例外中の例外で、犯罪と言っても窃盗がほとんどだったようだ。ところが昨今の経済難の影響で、凶悪事件が増加している。先月には平安南道(ピョンアンナムド)だけで、児童を狙った誘拐事件が2件起きた。

北朝鮮では過去、大量餓死が起きた1990年代の大飢饉「苦難の行軍」に際して治安が悪化。当局が公開処刑を繰り返して犯罪の抑え込みを図るという暗黒時代となったが、そのような事態が再現されるのだろうか。
(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

平壌のデイリーNK内部情報筋は最近、起きた事件について次のような詳細を伝えた。
(参考記事:狙いは「シャネル大好き富裕層」格差拡大の北朝鮮で4歳女児誘拐事件

事件が起きたのは今月10日の午後2時ごろ。普通江区域の凱旋門柱(ケソンムンジュ)幼稚園を、6歳の子どもの叔母を名乗る女性が訪問。「子どもの母親が職場で交通事故に遭い入院したので、代わりにやってきた」と告げ、子どもを連れ去った。

女性は幼稚園のそばの商店で菓子を買い与え、兄弟山(ヒョンジェサン)区域のあるマンションで警備員を務める老婆に3万北朝鮮ウォン(約690円)を手渡し、子どもを預けた。その間に、子どもから聞き出した母親の携帯番号に脅迫電話をかけ、なんと4万ドル(約439万4000円)という高額の身代金を要求した。

ところが、子どもが警備室の電話を借りて父親に連絡したことで、誘拐事件に巻き込まれたことがわかり、父親はすぐに安全部(警察署)に通報した。安全部は携帯電話の発信記録を元に犯人の潜んでいる場所を特定、潜伏した上で、やってきた犯人を逮捕した。

逮捕されたのは30代の女性のキム某。取り調べで動機について「結婚して3年目だが、商売はうまくいかず、食べていかなければならないのに、悩んだ末に幼稚園児を誘拐して身代金を取ることと考えた」と供述した。

情報筋は言及していないが、4万ドルという北朝鮮の一般庶民にとっては天文学的な額の身代金を要求していることから、被害者家族が裕福な暮らしをしていることをあらかじめ知った上での計画的犯行であったことが窺える。

北朝鮮では、昨年1月からのコロナ鎖国で食糧不足、経済難が深刻化し、犯罪が多発。各地で誘拐事件が相次いでいた。
(参考記事:北朝鮮で誘拐事件相次ぐ…背景にコロナ鎖国の経済難

それは、北朝鮮国内で最も豊かで、国からの配給に依存して生活を営む人の割合が多い平壌とて例外ではない。配給の遅配、欠配が続き、物価も高騰、深刻な経済難に襲われ、犯罪が多発していると伝えられている。
(参考記事:食糧難の北朝鮮で特別配給も、長期間は困難か