「残酷で息もできない」金正恩 “側近処罰” の緊迫場面

6月末の朝鮮労働党政治局拡大会議で新型コロナウイルス対策を巡る「重大事件」の責任を問われ、元帥から次帥に降格された朴正天(パク・チョンチョン)前朝鮮人民軍総参謀長が最近、政治局常務委員に昇格した。

また、同じく「重大事件」の責任を問われて常務委員を解任された李炳哲(リ・ビョンチョル)は、復職こそしていないものの、健在であることがわかっている。

その一方、安否が明らかになっていないのが、同会議で退席させられた崔相建(チェ・サンゴン)党書記兼科学教育部長だ。

会議の途中での退席は多くの場合、逮捕・拘束を意味する。その後に待ち受けているのは残虐な公開処刑や、生きて出ることの難しい管理所(政治犯収容所)送りだ。

崔氏もまた、例外ではなかったようだ。北朝鮮の内部情報筋は韓国デイリーNKに対し、次のようにその“場面”について語っている。

「彼が連れ出されるとき、議場は水を打ったように静まり返っていた。あまりに残酷で、参加者たちは息もできぬほどの恐怖感に包まれた。(受け持った)部門が違うだけで、コロナに直面しているのは誰もが同じだ。それだけに、明日は我が身との思いに襲われ、張成沢(チャン・ソンテク)のときよりも恐ろしかった。そのせいで、しばらくは誰もこの出来事について語れなかった」
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ここで言われている張成沢とは、2013年に処刑された金正恩総書記の叔父である。党行政部長として絶大な権力を誇っていたが、増長していると見なされ、国家転覆陰謀罪に問われた。

このとき、張成沢氏を逮捕し、死刑を執行したのは秘密警察である国家安全保衛部(現・国家保衛省)だった。そして今回、「議場の警備を担う社会安全省特別保安局の警護員たちが崔相建を連れ出し、引き渡した相手も、国家保衛省の要員たちだった」(情報筋)という。

また、諸外国では崔相建氏が失脚した理由について、保健分野を担当する党科学教育部長として、新型コロナ対策の貿易活動やワクチン、治療薬開発に失敗したことなどが挙げられている。しかし情報筋によると、そうではないという。

「コロナ問題が発生して、わが国では法的課題として取り扱われる学校教育の教育綱領の執行にも問題が生じた。それにもかかわらず、党の教育政策を受け持つ責任者が教育綱領の執行のための戦略を適切に講じず、革命課業の遂行で重大な問題が発生したと見なされたのだ」(同)

コロナ対策のため、北朝鮮でも長期にわたる休校措置が取られたが、「その間にお前は何をしていたのだ」と問責されたということだ。

それにしても、新型コロナの世界的な感染拡大が始まってから、1年半も経過した時点での処分である。教育行政に問題があったのなら、途中でいくらでも指摘できたはずだ。処分の背景に、何か別の事情があるのか。あるいは、金正恩氏の単なる思い付きなのだろうか。