金正恩の拷問部隊にハメられた「20代女性スパイ」の運命

北朝鮮において、チャイナ・テレコムなど中国キャリアの携帯電話は、密輸、脱北、韓国と北朝鮮を結ぶ送金業など、国際電話ができない北朝鮮キャリアの携帯電話の代わりに、中国と国境を接する地域で広く使われてきた。

今も昔も違法であることには変わりないが、かつてはワイロで揉み消せた。しかし、それすら今では困難となっている。当局がこれら携帯電話を「国内情報の海外流出、海外情報の国内流入の元凶」と見て、厳しい取り締まりに乗り出しているからで、処刑される人すら出ている。
(参考記事:北朝鮮、中国キャリアの携帯ユーザーを処刑…全国170人を摘発

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)では、管理所(政治犯収容所)送りになる人が出たと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

20代女性のハンさんは、2018年2月ごろから、脱北して韓国に住む家族からの仕送りを、北朝鮮に残された家族に届ける送金ブローカー業を営んできた。先月初め、顧客の脱北者家族を訪ね、送金されてきた現金を渡し、帰宅する途中で保衛部(秘密警察)に逮捕された。

家宅捜索が行われ、自宅からは中国人民元で6万元(約102万円)、米ドルで2万7000ドル(約297万円)の現金が発見された。送金ブローカー業を行っているので、自宅に多額の現金があるのは当たり前のことだ。しかし保衛部は、ハンさんが韓国の情報機関、国家情報院に国内情報を流し、その活動資金として現金を受け取り、また、それを他のスパイに分け与える役割を担っていたという容疑をかけたのだ。

情報筋は、国境地域で儲けるとすれば、密輸あるいはこのような送金ブローカー業しかないとし、脱北して韓国に行った人と、北朝鮮に残った家族を繋ぐ仕事の特性上、様々な話をするのは当たり前のことだとして、保衛部が無理な捜査を行っていると見ている。

だが、もしそうだとしても、ありとあらゆる暴言、暴力、拷問で自白を無理やり引き出すのが保衛部だ。拷問に耐えて容疑を否認し続けることは容易でない。
(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為

結局、ハンさんはスパイ容疑で管理所送りとなり、自宅は没収され、家族も奥地に追放されたとのことだ。現金が没収されたことは言うまでもない。
(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる

当局は今年5月、中国キャリアの携帯電話のユーザーを摘発した場合、連座制を適用して本人のみならず家族も都市から追放し、自宅も没収するという内部方針を示したという。それでも根絶に至らないため、今回は連座制に加え、スパイ容疑までかけて恐怖を煽ると同時に、スパイ摘発という点数稼ぎまで行ったというわけだ。

摘発時にコネやワイロで揉み消すのは困難な状況で、中国キャリアの携帯電話のユーザーは、外部との連絡を最大限抑え、息を潜めて嵐が過ぎ去るのを待っている。逆に言うと、しばらくすると、取り締まりが緩和されたり、ワイロなどで骨抜きできる状況になったりして、元のように使えるようになるということだ。

地域経済を支える大黒柱である密輸と送金、それに欠かせない中国キャリアの携帯電話を根絶することなど、不可能なことだ。また、彼らからワイロを得ることで運営資金としてきた保衛部にとっても、現状が望ましい状況とは言えまい。
(参考記事:北朝鮮国民の生活を縛る「反動的思想・文化排撃法」のヤバさ