「ウソだらけの教育などもういらない」北朝鮮国民が怒り

北朝鮮当局は先月から、一般住民を対象に若者の思想教育が重要だという内容の政治講演会を行っている。しかし、住民の反応は極めて冷淡だと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)清津(チョンジン)の教育分野の情報筋は、最近になって、若者の政治思想教養事業の重要性が強調されるようになり、先月から中央の指示に基づき、住民向けの政治講演会で学生、生徒の思想教養問題が最重要課題として取り上げられるようになっていると伝えた。

しかし、教育が大切と宣伝する一方で、無償教育は形骸化し、様々な金品を差し出さなければ学校も通えないばかりか、完全に食い詰めて、家を売り払って出ていってしまう人が続出する。女子学生の中には、売春に走るケースまで見られる。教育も何もあったものではない。
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先月中旬、清津市の新岩(シナム)区域で行われた講演会では、講師が50分間に渡り、「学生、生徒の科学技術教育、体育はしっかりとした政治思想の基礎の上に築かれる。何よりも重要なのは、朝鮮労働党、最高尊厳(金正恩総書記)、チュチェ(主体)思想でしっかりと思想的に武装することだ」などといったことを熱く語った。

また、「そのためには党の政策と革命の伝統の教養(思想教育)を強化しなければならない。党の路線、政策を体系的、全面的に教え、その本質と正当性に目覚めさせ、党の政策を確固たる信念として持たせなければならないとも強調した」。

字面だけ見ても、旧態依然とした中身のない、くだらない講釈であることが伝わるが、実際に講演会に参加した住民の反応は極めて冷淡なものだったという。中には怒りをあらわにする人もいたようだ。

「今まで党の政策と革命の伝統の教養に騙され生きてきたことだけでも頭にくるのに、自分の子どもにまで嘘の教育をしろということか」(住民の反応)

道内の茂山(ムサン)の情報筋も、現地を含めて全国的に同様の政治講演会が開かれていると伝えた。「学生、生徒は革命と建設の真の主人で、自主的で創造的な革命人材として育成するための思想教養事業は極めて重要だ。彼らの党の革命思想で武装させ、党を擁護させる」などといったありきたりの内容だった。

こちらでも住民の反応は極めて冷淡で、講師の方を見ようともせず、話を全く聞いていない様子が見て取れたと情報筋は伝えている。おそらく多くの人は、居眠りをしたり、内職に精を出したりして、下らない話が終わるまで時間を潰していたことだろう。

通常時でも全く耳に入ってこないであろう、中身のない話のオンパレードだが、昨年1月からのコロナ鎖国で、極度の生活苦、食糧難に苦しめられている人々にとって、全く腹の足しにならない思想の話などどうでもいいのだ。
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今必要なものは、食糧、それを買うだけの収入、安定した生活だが、北朝鮮当局には国が苦しいときほど、内部結束を図るために思想教育を強化する悪い癖がある。昔なら通用していた方法かもしれないが、自分たちがどういう状況に置かれているか客観視できる程度の情報が得られるようになった今、思想教育は何の意味も持たないだろう。
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