人知れず焼かれた6人の兵士…北朝鮮軍「懲罰施設」のおぞましい実態

北朝鮮の食糧事情と言えば、数十万人が餓死したと言われる1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のインパクトが強烈なせいか、多くの人々が食うや食わずの生活をしているというイメージが強いが、実はかなり改善し、餓死者が出るような状況ではなくなっていた。

市場経済化が進展するにつれ、食糧事情が改善し、量よりも質や味、安全性が問われるほどになっていた。少なくとも国際社会の制裁強化、コロナ鎖国前は、そのような状況だった。

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ただ、輸送過程での横領、横流し、中抜きなどが横行している朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の食糧事情は例外的に悪いままで、労働鍛錬隊、教化所(いずれも刑務所)、管理所(政治犯収容所)などの綱紀粛正懲罰目的で、食糧事情が意図的に悪くされていた。その劣悪さは、家族からの差し入れがなければ生き残れないほどで、それを利用した商売も行われている。

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二大食糧劣悪地帯が合わさった朝鮮人民軍の拘禁施設となれば、その状況は推して知るべしだ。かくして、貴重な人命が失われる事件が起きた。

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デイリーNKの朝鮮人民軍内部の情報筋によると、事件が起きたのは今月10日、東部労働教養所でのこと。独房入りの処分を受けていた兵士10人のうち、6人が遺体となって発見された。

死因は栄養失調だった。教養所には、独房に入れた者に対しては通常の3分の1の量しか、食事を与えないという規定がある。出されるものは腐ったトウモロコシであることが多く、水さえ自由に飲ませてもらえない。その過酷な環境で長期の処分を受けた者が死亡する事件が続出していたという。

ちなみに、この労働教養所とは、軍内の政治犯を収監する強制収容所で、一般犯罪を犯した者が収監される国防省の労働連隊、労働鍛錬隊と呼ばれる軍事刑務所とは異なり、軍の保衛局(元の保衛司令部)の傘下にある。

教養所当局は翌日、遺体を焼却処分してしまったのだが、遺体を移動する過程を目撃した上級幹部が、視察に訪れていた軍保衛部の政治部長に報告したようだ。政治部長は事件の深刻さを察知し、中央党(朝鮮労働党中央委員会)軍事部に報告した。

中央党軍事部は、処罰のレベルを調節すべきとしたが、人の命が失われたからではない。こんな事件が起きたことが軍内部に広まれば、他の兵士たちの間で思想離脱、つまり体制に対する懐疑心、反発心が生じかねず、それを防止する観点から厳罰化に歯止めをかけたということだ。同時に、収監者全体の違反行為、政治的発言に関する動向調査を徹底して行うように指示したことからも、人権を尊重するための指示ではないことがうかがい知れる。

軍保衛部政治部も、独房処分を受けた収容者に対する食事の量を増やすように指示したが、死者の遺体を焼却処分したことは問題視せず、遺骨の返還を求める一部遺族に対しては「そんなことを望める立場か」などと言い放ったという。

北朝鮮は、拘禁施設の収監者が死亡した場合、遺族に死亡通知を送りつけるだけで、遺体の返還要求には応じない。火葬を忌み嫌い、遺体を土葬で丁寧に弔うことを重要視する朝鮮の死生観を考えると、二重処罰とも言うべき仕打ちだ。

人間中心のチュチェ(主体)思想を掲げつつも、死者の尊厳を平気で踏みにじるのが北朝鮮の実像だ。

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