金正恩「拷問部隊」も動揺…北朝鮮 “飢餓の行軍” の末期症状

1990年代後半に北朝鮮を襲った未曾有の食糧難「苦難の行軍」。全国的に食糧の配給システムが崩壊し、数十万とも言われる餓死者と出した。そんな中でも一部の人々に対しては配給が続けられていた。

安全部(警察署)や保衛部(秘密警察)など、北朝鮮の抑圧体制を末端で支えている治安機関だ。両機関とも、不満分子と見なされた人々に対しては拷問もためらわず、特に保衛部は公開処刑や政治犯収容所の運営も担当している。

つまりは体制維持のための「恐怖政治」の担い手であり、彼らの忠誠心をつなぎとめるため、特別待遇が続けられてきたわけだ。

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ところが、2018年秋ごろから遅配、欠配が起こるようになっていた。北朝鮮の食糧難がいかに深刻かを示している。

(参考記事:配給停止で食糧確保に駆けずり回る北朝鮮の警察官

ところが先月末、一気に1年分の食糧配給が行われたと、デイリーNKの内部情報筋が伝えた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)と両江道(リャンガンド)の安全員(警察官)にはコメ40キロとトウモロコシ200キロが、保衛員(秘密警察)にはそれぞれ80キロと220キロが配られた。いずれも1年分の量で、当局は軍糧米(軍向けの食糧)、輸入米などをかき集めて、ようやく配給にこぎつけたとのことだ。

最近、限定的に輸入が再開されたが、その際に持ち込まれた食糧が配給に当てられた可能性も考えられる。

(参考記事:1年以上ぶりに輸入を再開した北朝鮮、輸出はなお停止状態

昨年、当局が配給できたのはひと月に15日分、あるいは20日分のトウモロコシだけだった。それも3ヶ月から、地域によっては半年間の欠配となっていたが、当局が今回、1年分の配給を一気に行った理由は「生活苦」の解消だ。

中国との国境に接する咸鏡北道、両江道、慈江道(チャガンド)、平安北道(ピョンアンブクト)の安全員と保衛員は、密輸、脱北、中国キャリアの携帯電話使用などの違法行為を見逃すことで多額のワイロを得たり、それらに直接関わることで利益を得たりしてきた。特に、国境を流れる川の幅が狭い咸鏡北道と両江道では、それら行為が盛んに行われていた。

ところが、新型コロナウイルスの流入防止のために国境警備が強化されたことで、それらの行為が困難になり、深刻なダメージを受けた。「タバコ代ほどの稼ぎにしかならない」と自嘲するような言葉が交わされるほど、安全員と保衛員の生活が苦しくなった。

農村地域では、安全員、保衛員が暗躍するヤミ金業者のバックに付き、借金の取り立てを手助けしたりもしていたが、今では「(民間人から)カネを借りるほどの身分に成り下がった」と言われるほどになってしまった。

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余裕のある暮らしをしていた彼らにとって、わずかばかりのコメ、トウモロコシだが、今はそれですらありがたいようだ。

金正恩総書記は、先日の第6回朝鮮労働党細胞書記大会の閉会の辞で、再び苦難の行軍を行うことを決心したと述べたが、それほどの経済的苦境に立たされている中、脱北が増えると政府は見ており、国境地域の統制を強化するためにも、安全部、保衛部が生活難でグラつく状況を看過できないと判断、配給を実施したのだろうと、情報筋は見ている。

(参考記事:金正恩氏「苦難の行軍を決心した」…党細胞書記大会が閉幕