「お祖父さんの真似も出来ないのか」金正恩に北朝鮮国民が幻滅

人民に最高指導者の名前で「贈り物」をすることで、世論をつなぎとめるというのが北朝鮮の歴代指導者たちの人心掌握術だ。悪く言えば「もので釣る」ということだが、それに慣れている北朝鮮の人々は、どんなものをもらえるかで最高指導者を「値踏み」する。

毎年話題に上がる、最高指導者の生誕記念日の特別配給。今月15日の太陽節(金日成主席の生誕記念日)を控え、平壌市民に名節(お祝いの日)の特別配給が始まった。

ところが、その中身が市民の期待に満たず、むしろ金正恩総書記の権威を傷つけていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

まずは、昨年の太陽節の特別配給の内容から紹介しよう。

「30号対象」と呼ばれる、中区域、平川(ピョンチョン)、普通江(ポトンガン)、牡丹峰(モランボン)、西城(ソソン)、万景台(マンギョンデ)の市内中心部6区域の住民には、1人あたり冷凍ハタハタ5キロ、卵4個、1世帯あたり500グラム入り大豆油2本、キャンディ3キロ、化学調味料500グラム、500グラムのゼリー2本、味噌2キロ、洗顔石鹸と洗濯石鹸5個ずつ、歯ブラシと歯磨き粉5本ずつ、洗濯洗剤1キロが配給された。

また、「410号対象」と呼ばれる郊外の12の区域と2つの郡の住民に対しては、1人あたり冷凍ハタハタ2キロ、卵1個、1世帯あたり500グラム入り大豆油1本、キャンディ1キロ、味噌500グラムが配給された。

さて、今月1日から始まった配給の中身はというと、居住区域を問わず、1人あたり砂糖150グラム、食用油150グラム、化学調味料450g入りが1袋。年々、特別配給に対する期待値は下がりつつあるとはいうものの、昨年のものと比べると驚くほどの落差だ。

貧弱になる一方の配給の中身を見た平壌市民は、「(金正恩氏は)おじいさん(金日成氏)を真似ようとするばかりで、実際には太陽節の配給もまともにできない」と失望の声を上げ、お祝いムードも盛り上がっていないと、情報筋は伝えている。

(参考記事:コロナ鎖国で食糧難に苦しむ北朝鮮、旧正月の特別配給への期待消える

昨年1月から始まった新型コロナウイルス対策の国境封鎖で海外からの物資が入らなくなり、北朝鮮国内ではモノ不足、物価高騰が深刻化。平壌では、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のときでさえ続けられていた食糧配給も、昨年3月から遅配や欠配、減量が見られるようになった。そんな中でも、当局は特別な日の配給だけは、盛大にしようと努めていたようだが、それすらもできないほど、食糧事情が悪化しているようだ。

(参考記事:北朝鮮の特別配給「平壌市民は豪華食品、地方はジャガイモ」

ただ、本当に必要なものを市場価格より安く配給してくれたと、喜ぶ人もいる。

昨年4月の朝鮮労働党中央委員会と内閣の共同決定により輸入が制限されたことで、砂糖は1キロが3万5000北朝鮮ウォン(約560円)、食用油は同3万北朝鮮ウォン(約480円)、化学調味料は同7万北朝鮮ウォン(約1120円)まで高騰し、とても手が出なくなっている。

今回は砂糖150グラムで400北朝鮮ウォン(約6.4円)、食用油150グラムで350北朝鮮ウォン(約5.6円)、化学調味料1キロ4700北朝鮮ウォン(約75円)という、激安価格で配給した。ただ、これでは特別配給ではない一般配給と同じで、「スペシャル感」は皆無だ。

(参考記事:250%もの物価高騰をもたらした北朝鮮のコロナ鎖国

一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、今月7日から清津(チョンジン)市をはじめ道内の住民に、人民班(町内会)を通じて砂糖、食用油、化学調味料を配給するとの通知があった。情報筋はその量には触れていないが、平時とは異なり、平壌と地方で同じものが配給されることになるようだ。

ただ、平壌への配給が優先されるため、予告があっただけで、地方でいつ配給が行われるかは予想が困難だと情報筋は説明した。昨年の太陽節には配給そのものがなかったことを考えると、まだそれなりに気を使った結果ではあるのだろう。