「人民軍が人民を殺すのか」住民の抗議運動に北朝鮮軍が敗北

韓国土地住宅公社(LH)の職員が、文在寅政権が不動産価格抑制策の一つとして打ち出したニュータウン開発に絡み、値上がりが見込まれる建設予定地の土地を購入していたという不動産投機疑惑。住宅価格の高騰が政権の支持率を左右するほどのお国柄だけあって、この問題に対する韓国国民の怒りは強く、文在寅大統領は謝罪に追い込まれた。

人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真

韓国の不動産開発で頻繁に登場するのが、立ち退きに抵抗する住民を暴力的に排除する「用役(ヨンヨク)」と呼ばれる雇われチンピラ集団だ。そのあたりの事情は、軍事境界線の向こう側の北朝鮮でも似たようなもののようだが、ある老人の死をきっかけにして、住民の居住権が守られたというエピソードを、デイリーNK内部情報筋が伝えている。

(参考記事:立ち退きを迫られビニールハウスで寒さを凌ぐ北朝鮮の農民たち

金正恩総書記は、首都・平壌に今年1万戸の住宅を無条件で建設せよとの指示を下した。コロナ鎖国で深刻化する経済難の中、当局は無許可で平壌に住み着いている人々を追放することで、配給する食糧を少しでも減らそうという「口減らし」を行うほどの状況なのだが、そんなことはどこ吹く風。業績を「見える化」するアイテムとして手っ取り早い、マンション建設を次から次へと進めているのだ。

人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

その予定地の一つ、琵琶(ピパ)通りは、2017年に完成したタワマン団地の黎明(リョミョン)通りから西へと伸びる通りで、高位級幹部の住む高級マンション、一戸建てが立ち並ぶ一方で、裏通りには木造の平屋が密集している。

(参考記事:制裁とコロナで青息吐息の北朝鮮が新たなタワマン計画

現地のデイリーNK内部情報筋によると、当局は、平壌市建設指導局のみならず、中央機関、団体、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)、企業所などに対して、平壌市1万戸住宅建設に関するノルマを割り当てた。単位(事業体)ごとに土地と建設計画を割り振り、建設を行えということだ。

人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真

一例を挙げると、国防省には平屋建てが集まる琵琶通りと、朝鮮戦争直後に建てられた老朽化した家屋が集まる千里馬(チョルリマ)通りにそれぞれ16階、13階建てのマンションを建設せよとの指示が下された。

面倒な仕事のように思われるが、実のところこれは儲け話だ。建設を請け負った単位は、トンジュ(金主、新興富裕層)から投資を募り、その資金を元に建設を行う。トンジュは投資の見返りに部屋の権利を受け取り、工事を請け負った単位も、部屋を売却することで儲けを得る。

(参考記事:水害被害の北朝鮮、住宅再建も「個人投資家」が頼り

国防省でこのプロジェクトを任された部署が財政部である点からも、そのへんの事情がかいまみえる。ところが、工事は思ったように進まなかった。建設予定地に住んでいる人に立ち退きを要求したが、出ていこうとしないのだ。

一般的に平壌市で再開発が行われる場合、元いた住民に「入舎担保書」、つまり新しく建てたマンションに入居する権利を与えるのと引き換えに、立ち退きに応じさせる。ところが、国防省財政部は入舎担保書を一向に出そうとせず、ともかく出て行けと言うばかり。部屋を分け与えて、儲けが減ってしまうのを嫌ったのだろう。住民は、入居保証が得られなければ出ていけないと、立ち退きを拒否していた。

話し合いが膠着状態にあった今月1日の夜中、財政部の副部長は、警務部(憲兵隊)の警務官、部下ら10人を引き連れて、立ち退き対象者の家に押しかけ、部屋の中をむちゃくちゃにするなど乱暴狼藉を働いた。そのとき、三面鏡の鏡台が、家の中にいた80代の老人の頭部を直撃した。老人は、救急車で平壌第1病院に搬送されたものの、結局は亡くなってしまった。

この老人は、家長の男性の父親で別の家に住んでいたが、息子を訪ねてやって来たところで事件に巻き込まれたのだった。

男性は「人民軍隊が人を殺した」と中央党(朝鮮労働党中央委員会)に対して、信訴(不正行為の告発)を行った。信訴とは、民主的な選挙や公平な司法制度の存在しない北朝鮮において、国民が国による不正行為を訴えるほぼ唯一の手段だが、妨害にあったり、内容が漏れたりして、加害者から逆襲されたり、もみ消されたりするリスクもある。

この男性がある程度の地位にある幹部だったのか、あるいは中央党の信訴処理部に対する綱紀粛正が行われたことが功を奏したのか、今回の事案は大きく取り上げられた。

(参考記事:北朝鮮社会が震撼「医大の性奴隷」事件で死屍累々

その結果、関係者には「党の思想に反する行為を行った」(情報筋)という理由で、重い罰が下されることになった。財政部副部長は軍事裁判にかけられ無期の労働教化刑(懲役刑)の判決が下され、警務隊の隊員らは軍の保衛局(秘密警察)に勾留された上で、労働連隊(軍の刑務所)送りとなった。さらに、家族も平壌から奥地へ追放される処分を受けた。

それだけではない。国防省に任されていた建設は、平壌市首都建設旅団に与えられた。つまり、マンション建設で得られるはずだった儲けが取り上げられたということだ。

国防省は、立ち退き対象者に1万ドル(約109万円)の補償金を北朝鮮ウォンで支払い、新しい住居も与えることになった。また、平壌市首都建設旅団も、立ち退き対象者に部屋を与えることとなった。

私有財産の保障が明確化されていない北朝鮮で、住民の居住権に重きを置いた措置が取られるのは珍しいことだ。また詳細は不明ながらも、結社の自由、集会の自由が事実上制限されている北朝鮮で、住民運動のようなものが起きていたという点で、北朝鮮社会の変化を示す出来事と言えるかもしれない。

(参考記事:「何かがおかしい…」国のやり方を疑い始めた北朝鮮の人々