生活苦の北朝鮮男性が行きつく「ヒモ」というお仕事

一時期、日本のメディアで騒がれた「コロナ離婚」。ところが、厚生労働省の人口動態統計速報によると、2020年の離婚件数は19万6641組で前年比7.7%減少している。その一方で、結婚も12.7%減少した53万7583組だった。

コロナをきっかけにした離婚は全世界的な現象ではあるが、日本には必ずしも当てはまっていないということを統計は示している。韓国でも離婚、結婚とも3.9%、10.7%減少していることが、統計庁の資料が示している。

一方、「最近、離婚する人が多い」と述べた平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋。コロナも関係しているが、それとは別に根本的な要因があると説明した。

「(新型)コロナウイルスと(国際社会の対北朝鮮)制裁のせいで、役割を果たせずにいる男たちが増えて、結婚よりは同棲を選択する人が多い。(新義州<シニジュ>では)好きになれば同棲すると言われるほど」(情報筋)

男性は、まともな給料ももらえないのに、国からあてがわれた職場に縛り付けられている。他方、必ずしもその必要のない女性は、市場での商売で収入を得て、一家の生計を担う。すでに一般化したこんな男女の経済的な立ち位置の差が、制裁とコロナをきっかけにさらに広がったようだ。

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それに加えて広がる同棲や事実婚。経済力のない男性の世話をすることになるという女性の懸念が反映された現象だという。また、こういう女性が賢明で進歩的でロールモデル(模範)と認識されるようになっている。結婚の決定権は、経済力を持つ女性の手中にあるのだ。

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同棲や事実婚が好まれるのには、離婚が非常に難しいという別の理由も存在する。

当局は離婚を社会悪と見なし、「離婚が社会と革命を利する場合のみ容認する」として、ハードルを高くしている。協議離婚は廃止され、裁判離婚のみが認められており、健康問題、不倫、家庭内暴力、重大な違法行為など許可事由が非常に限られている。それが、殺人事件につながってしまう例もある。

(参考記事:「北朝鮮の女性医師、不倫相手と共謀しアル中夫を殺害

また、裁判費用も高く、離婚した女性への社会の偏見もあり、離婚した場合のデメリットを考えると、結婚しない方がリスクが低いのだ。

一方で経済力のある女性は、裁判官、弁護士、 参審員(裁判員)にワイロをばらまいてさっさと離婚許可を取り付けてしまう。その額は場合によって異なるが、500ドル(約5万4000円)から数千ドルに達するという。

三行半を突きつけられた経済力のない男性の中には、座して死を待つわけにもいかず、生きていくためにこんな仕事をしている人々もいる。

「男性の中には、(1ヶ月に)300元(約3万3000円)で、一人暮らしの女性に食事を作り、性的欲求を満たす条件で(一緒に)暮らしている者もいる」(情報筋)

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男性が家事労働を担い、女性が職場で働くケースは諸外国でよく見られるが、情報筋は、古い言葉で言うところの「ヒモ」と考えているのか、あまり快く思っていないようだ。社会の変化についていけず、旧態依然とした考えに囚われ、性暴力など女性の人権への侵害に対する反省がない男性が多いからだろう。

「男性たちは、女性から離婚届を突きつけられる人が増えていることについて『経済難で女をコントロールするのが難しくなったから』と考えている。『思想性開放現象』が離婚要求を押し上げる原因という人もいる」(情報筋)

変化に対応できず、旧態依然とした考えを捨てきれないのは男性ばかりではないが、そうした人々がセーフティーネットなどほとんどない北朝鮮社会を生き抜くのは、不可能なほど困難と言える。

(参考記事:時代に乗り遅れ貧困化し始めた北朝鮮の「赤い貴族」