「もうすぐ国際援助が来る」飢える国民に北朝鮮がニセ情報

北朝鮮のメディアは、権力の側が国民に押し付ける内容がほとんどで、人々が「知りたい」と望む情報はきわめて少ない。娯楽的な要素も少なく、事件や事故の報道は、有線ラジオの第三放送や、政治講演会において思想統制などに利用する価値のあるごく一部が伝えられるだけだ。

国民の多くが「禁制」である韓流にハマってしまう背景には、情報や娯楽への欲求を満たすだけのものを提供できない、情報政策の稚拙さがあると言えよう。

そうした欲求の空白を埋めているのが、口コミだ。人が数人集まりさえすれば、噂話に花が咲く。噂話は、行商人を通じて全国各地に広まる。もちろん、当局にとって都合の悪い話も少なくなく、その威力を恐れる当局は、何か重大事件が起きるたびに噂を遮断するために、人が集まることを制限しようとする。

1年以上続く「コロナ鎖国」により、1990年代後半の食糧危機「苦難の行軍」の再来が噂されている今、当局は「悪い噂」を抑えようと宣伝活動を積極的に行っている。

米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)の平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、当局の宣伝内容とは次のようなものだ。

「国際社会から援助食料がまもなく届く」
「わが国(北朝鮮)は徹底した封鎖と遮断で、(新型)コロナウイルスが拡散していない世界唯一の国だから、国際社会が支援してくれる」

北朝鮮の危機的状況が国際社会に伝われば、援助が寄せられる可能性はある。少なくとも、南北融和に積極的な韓国の文在寅政権は、支援に向け支援に取り組むはずだ。しかし今のところ、北朝鮮側でも国際社会の側でも、そのような大きな動きは見られないのが現実だ。

それでも北朝鮮当局としては、飢餓の影に怯える国民の関心を、他に向ける必要性を感じてきているのかもしれない。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

もっとも、フェイクニュースを多用する当局のやり方を熟知している北朝鮮の人々は、そんな宣伝など信じようとしない。市民からは「国際社会の支援が途絶えたのは、コロナのせいではなく核開発のせいなのに、何を眠たいことを言っているのか」(情報筋)と言った声が上がっている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、当局の宣伝活動の背景にある劣悪な食糧事情と、住民の間で広がる「餓死の恐怖」について伝えている。

備蓄しておいた食糧が底をついた「絶糧世帯」が増加し、まともに食事ができずに餓死する人が増え、1月中旬には、清津(チョンジン)市の富寧(プリョン)区域の協同農場に住んでいた50代女性と、精神疾患を患っていた次男の2人が餓死する事件が起きた。

10年前に労働事故で夫を失い、さらには昨年に軍に入隊した長男が病死。衝撃が大きく仕事が手につかなくなり、ノルマを達成できなかったとの理由で農場から穀物を分けてもらえず、個人の畑で取れた大豆も、農場の管理委員会に脅し取られてしまった。コロナ対策で商売ができず、干した大根の葉を入れた粥で糊口をしのいでいたが、ついに力尽きてしまったようだ。

この種の情報は、昨年から数多く伝えられている。北朝鮮当局が流すフェイクニュースの陰で、より深刻な現実が進行しているのかもしれない。